研究実績の概要 |
主要なウイルスのほとんどで、cDNAのみから感染性ウイルスを人工合成することを可能にする完全なリバースジェネティクス系(遺伝子操作系)が開発され、ウイルス増殖や病原性発現の機構といった基礎研究のみならず、ワクチン開発やウイルスベクター開発にもおいても活用され、多くの重要な知見が得られている。重要な下痢症ウイルスであるロタウイルスにおいては、そのゲノム構造の複雑さ故にその開発は困難を極めたが、ごく最近に、大阪大学との共同研究により、その開発に成功した(PNAS 114, 2017)。この新規な遺伝子操作系における組換えロタウイルスの人工合成効率はいまだ不十分であったが、BHK/T7-9細胞に遺伝子導入する全11本のロタウイルス分節ゲノムをコードするT7プラスミドのうち、NSP2とNSP5の非構造蛋白質をコードするプラスミド量を調整することで、組換えロタウイルスの人工合成効率が飛躍的に向上することを見い出した(J Virol 92, 2018)。この独自の遺伝子操作系を用いることで、世界初となる、全長の蛍光蛋白質(EGFP, mCherry)を安定に発現する組換えロタウイルスの作成も報告した。一方で、最も重要なヒトロタウイルスは増殖能がきわめて低く、依然として遺伝子操作系の開発は困難であったが、ロタウイルス胃腸炎患者便中のヒトロタウイルスを効率良く分離する技術(高濃度のトリプシン添加と回転培養)を利用することで、世界に先駆けて、ヒトロタウイルスを人工合成することにも成功した(J Virol 93, 2019)。
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