研究課題/領域番号 |
18K07152
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
藤澤 順一 関西医科大学, 医学部, 教授 (40181341)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HTLV-1 / ヒト化マウス / 白血病 / 免疫チェックポイント / PD-1 |
研究実績の概要 |
臍帯血由来造血幹細胞をNSGマウス移植して作成したヒト化マウスに、HTLV-1感染細胞Jurkat株を腹腔内接種することでHTLV-1を感染させた後、感染3週目より、抗PD-1抗体0.1mgを2日おきに3回投与し、末梢血リンパ球の種類および細胞数を経時的に計測した。 HTLV-1の感染により、ヒト化マウスにおける末梢血CD4陽性Tリンパ球は十~数百倍に増加し、感染5週で4匹中3匹が白血病死したが、抗PD-1抗体投与マウスではCD4陽性Tリンパ球数は数倍の増加にとどまり、死亡する個体はなかった。 感染CD4Tリンパ球の腫瘍性増殖に対応して、対照群ではCD8陽性Tリンパ球の数も十~数百倍の増加を示し、宿主免疫応答の活性化が観察されたが、抗PD-1抗体投与群においてはCD8陽性Tリンパ球の増加は最大20倍にとどまり、CD8/CD4比は対照群と比較して低値であった。この結果は、CD8陽性Tリンパ球の細胞あたりのCTL活性の上昇を示唆し、PD-1/PD-L1免疫チェックポイントシグナルを介したCTL活性の抑制が、個体レベルでのHTLV-1感染細胞の腫瘍性増殖に関与していると結論された。 一方、感染細胞の20~50%がPD-1を発現していたことから、HTLV-1感染細胞の腫瘍増殖自体にPD-1/PD-L1免疫チェックポイントシグナルが抑制的に働いている可能性が示唆されたが、抗PD-1抗体の投与により感染細胞の増殖は逆に抑制されたことから、個体レベルにおける腫瘍増殖の制御においては宿主免疫の影響の方が高いと考えられた。 今後、免疫チェックポイントの阻害による感染細胞抑制機構の詳細を、各種サイトカイン産生等を指標としたCD8T細胞のCTL活性および非感染CD4T細胞や樹状細胞の活性を組織・細胞レベルで明らかにすると共に、抗腫瘍剤や抗Taxワクチンとの併用効果を検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで研究用臍帯血の供与を受けていた臍帯血バンクの方針変更により学内倫理審査委員会の審査・承認が必要となり、これに半年近く要してしまったことが原因でヒト化マウスの作成が遅延した。そのため、当初予定していた薬剤投与の実験に必要な数のヒト化マウスが獲られなかったため、同計画を次年度に繰り越すこととなった。そこで、限られた数のヒト化マウスを用いて、複数の薬剤投与に関する予備実験を行ったところ、短期間で白血病死する感染個体においては薬剤の投与効果の判定が困難であった。一方、感染個体リンパ系組織の免疫組織染色による解析は着実に進行しており、ワクチン投与、薬剤投与時の組織レベルでの機能解析が期待される
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今後の研究の推進方策 |
現在用いているHTLV-1感染ヒト化マウスの系においては、感染2ヶ月以内に多くの感染個体が白血病死することから、宿主免疫による抑制機能を上回る感染細胞の急激な腫瘍増殖性のため、薬剤等の投与効果が判定しにくいと考えられる。十分量のヒト化マウスの供給が確保できた現在、感染に用いるHTLV-1産生細胞の種類と数を調整し、長期に生存する感染マウスの作成を検討する予定である。同時に、予めHTLV-1Taxワクチン予備投与により、免疫系を一定量賦活化した後に感染を行う可能性も検討する。
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