これまでの解析から、HTLV-1感染ヒト化マウスにおいては、感染CD4陽性T細胞のほぼ全てがTh1細胞の形質を示し、CD8陽性細胞障害性T細胞の分化・増殖は大量に行われているにもかかわらず、抗原非特異的な細胞障害性T細胞の増殖により感染細胞に対する宿主免疫の発現が抑制されている可能性が示唆された。一方、HTLV-1感染ヒト化マウスで増加するCADM1陽性CD8陽性T細胞のほぼ全体がHTLV-1に感染していることから、細胞障害性T細胞の増殖におけるHTLV-1感染の影響を検討した。 そこで、臍帯血由来リンパ球画分とHTLV-1感染T細胞株C91/PLをin vitroにおいて4日間共培養したところ、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、B細胞、NK細胞全てにおいて10~20%の感染が観察された。さらに、リンパ球画分を予め蛍光試薬CFSEで染色し、細胞分裂の頻度を計測したところ、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞何れも、感染細胞株と共培養した時のみ細胞分裂が観察され、IL-2非添加の状態においても、HTLV-1感染によりCD8陽性T細胞がCD4陽性T細胞と同様に増殖することが示された。 また、増殖画分では有意な量のCADM1およびT-betの発現が見られたことから、CD3抗体でT細胞受容体刺激を加えたところ、CD4およびCD8陽性T細胞において、いずれもCADM1とIFN-γの発現上昇が観察された。この結果から、HTLV-1感染によりCD4陽性T細胞はTh1細胞に、CD8陽性T細胞は細胞障害性T細胞に分化するとともに、IL-2非依存的な増殖性を獲得することが示された。 以上の結果から、ATL発症過程において、HTLV-1のCD8陽性T細胞への感染と細胞障害性T細胞の抗原非特異的な増殖が、感染細胞特異的な宿主免疫の発現を抑制することでATL発症を加速する可能性が示唆された。
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