研究課題/領域番号 |
18K07155
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
日吉 真照 国立感染症研究所, 血液・安全性研究部, 主任研究官 (40448519)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HTLV-1 / 細胞膜ナノチューブ |
研究実績の概要 |
これまでに、正常T細胞では発現しないM-secは、(1)HTLV-1感染によってT細胞で異所性発現するようになること、(2)HTLV-1感染T細胞で細胞膜ナノチューブを形成誘導して細胞間の感染伝播を促進すること、を見いだしてきた。今回、HTLV-1感染T細胞におけるM-Sec異所性発現について分子メカニズムの解明を試みた。 HTLV-1がコードするタンパク質群のそれぞれを単体でT細胞株に導入して調べたところ、TaxがM-Secの異所性発現を誘導することがわかった。この誘導について詳細な分子メカニズムを明らかにするため、すでに報告されている様々なTax変異体をT細胞株に導入し解析したところ、M-Secの異所性発現にはTaxが活性化するNFκB経路が関与することがわかった。 一方、HTLV-1感染T細胞においてM-Secが誘導する細胞膜ナノチューブ形成の分子メカニズムについても詳細に解析した。我々がHIV-1感染マクロファージにおいてM-Sec下流分子として着目している細胞内因子RalA、Cdc42およびRac1について、これらの阻害剤を用いたin vitro解析を行ったところ、HTLV-1感染T細胞においてはRalAが細胞膜ナノチューブ形成に関与することがわかった。 今回明らかにした細胞膜ナノチューブ形成の分子メカニズムをもとに、我々が独自に同定したM-Sec機能阻害剤(NPD3064)および既知のRalA機能阻害剤(BQU57)について、HTLV-1感染伝播の抑制活性をin vitro共培養実験を用いて検討した。その結果、NPD3064とBQU67はどちらも、HTLV-1感染細胞株から非感染細胞への感染伝播を抑制することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、細胞膜ナノチューブはHTLV-1感染伝播に関与することを明らかにしてきた。そのため、細胞膜ナノチューブ形成を阻害することは、HTLV-1感染伝播抑制の新たな戦略となり得る。この新たな戦略のためには、感染T細胞における細胞膜ナノチューブ形成の分子メカニズムを明らかにして薬剤の標的分子を見いだす必要がある。 本年度の研究によって、(1)HTLV-1感染T細胞におけるM-Secの発現は、HTLV-1 TaxによるNFκB経路活性化が必要であること、(2)M-Secによる細胞膜ナノチューブ形成にはRalAが関与すること、を明らかにすることができた。これらの結果から、HTLV-1感染伝播抑制のための新たな標的として、NFκB経路 、M-SecおよびRalAを見いだすことができた。 また、これらの標的分子の機能阻害剤についてin vitro共培養実験を用いたHTLV-1感染実験を行ったところ、M-Sec機能阻害剤(NPD3064)およびRalA機能阻害剤(BQU57)がHTLV-1感染伝播を抑制することがわかった。 このように、本年度の大きな目的であるHTLV-1感染抑制剤の探索について、M-Sec機能阻害剤(NPD3064)とRalA機能阻害剤(BQU57)という2つの薬剤候補を見いだすことができた。このうち、NPD3064は我々が独自に同定した新規の薬剤であり、これまでにない細胞膜ナノチューブを標的にしたものであるため、全く新しいHTLV-1の治療戦略として期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、HTLV-1感染T細胞における細胞膜ナノチューブ形成にはM-Sec-RalA経路が関与することを明らかにした。さらに、細胞株を用いた感染実験によって、独自に同定していたM-Sec機能阻害剤(NPD3064)と既知のRalA機能阻害剤(BQU57)はHTLV-1感染伝播を抑制することを見いだした。そこで今後は、さらにNPD3064とBQU57のHTLV-1感染抑制能を検証するために、以下のことを中心に研究を行う。 (1)HTLV-1キャリア由来の感染細胞を用いた感染抑制能の検証 (2)ヒト化マウス感染実験を用いた感染抑制能の検証 (1)については、HTLV-1キャリアから分取した感染T細胞と正常T細胞の共培養液中にNPD3064またはBQU57を加えて感染細胞数を解析することで、これらの薬剤の感染抑制効果を検証する。また、(2)については、これまでの研究で確立しているHTLV-1感染ヒト化マウスにNPD3064またはBQU57を投与した後、ヒト化マウス体内の感染細胞数を解析することで、これらの阻害剤の感染抑制効果を検証する。同時に、これらの検証において薬剤の副反応についても検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究結果から、独自に同定しているM-Sec機能阻害剤 NPD3064で良好なHTLV-1感染伝播抑制活性が認められた。今後、さらにNPD3064の有用性を検証するために十分な量を確保する必要性が生じた。この薬剤は市販されていない薬剤であるため、オーダーメイドで作製する必要があり、納品までにある程度の時間を要する。そのため、次年度に使用する研究費が生じた。
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