研究課題/領域番号 |
18K07156
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
徳永 研三 国立感染症研究所, 感染病理部, 主任研究官 (50342895)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MARCH8 / 抗ウイルス活性 / シュードタイピング / ウイルスエンベロープ糖蛋白質 / HIV-1 |
研究実績の概要 |
我々が世界に先駆けて報告した新規抗ウイルス宿主因子MARCH8(Tada et al. Nat Med. 2015)の、種々のエンベロープウイルスに対する抗ウイルス活性の範囲について現在検討中である。その過程において、今回、MARCH8がウイルス感染抑制において異なる分子作用機序を示すことを明らかにした。水胞性口炎ウイルスGタンパク質(VSV-G)の細胞質リジン変異体によるシュードウイルスではMARCH8に抑制されなくなるのに対し、HIV-1エンベロープ(Env)のリジン変異体では依然MARCH8に感受性を示した。またVSV-Gの野生型はMARCH8によりユビキチン化されるがリジン変異体ではユビキチン化されず、HIV-1 Envは野生型でもユビキチン化を受けないことから、MARCH8はVSV-Gをユビキチン依存的に分解する事が判明した。一方で、MARCH8のC末側細胞質領域にあるYxxΦモチーフの変異体は、HIV-1 Envに対する抑制能を失うが、VSV-Gに対する抑制能は保持することから、MARCH8はHIV-1 EnvをYxxΦモチーフ依存的に(恐らくクラスリン依存的エンドサイトーシスにより)阻害することが分かった。これは我々が以前、MARCH8がVSV-Gをdownregulationした後にリソソーム分解へと導くのに対し、HIV-1 Envについてはそれを分解することなく細胞内に滞留させるという結果に矛盾しない。以上より、MARCH8は二つの異なる分子作用機序(ユビキチン依存的またはYxxΦモチーフ依存的)によってウイルスエンベロープの機能を抑制していることが明らかになった。現在、bioRxivにおいて査読前論文を公開中である。https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.09.035204v2
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本実験においては、感染に用いるシュードウイルス量を野生型と変異体で正確に合わせる必要があるため、かなり高頻度に市販ELISAキットを使用しなければならず、コスト的・所要時間的な負担が非常に大きいという問題を抱えていた。これを解決すべく、今回我々は、本研究課題と並行して、近年開発された発光型ペプチドタグHiBiTをHIV-1インテグラーゼのC末端に付加した完全長HIV-1プロウイルスDNAまたはレンチウイルスベクターを構築した。HiBiT配列付加はウイルス産生および感染性に影響せず、電顕観察によりHiBiTタグ付加ウイルス粒子の形態に異常がないことも明らかにした。更にELISAとHiBiTルシフェラーゼアッセイによる同一サンプルを用いた定量比較により、両者の測定値において非常に高い相関係数が得られることが明らかとなった。今後、今回樹立したウイルス定量システムを用いて非常に正確・便利・簡易・安価でかつ超迅速なHIV-1の定量を行うことが可能となった。現在、bioRxivにおいて査読前論文を公開中である。https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.10.033381v1
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今後の研究の推進方策 |
今現在、世界中で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)が猛威を振るっており、ワクチンおよび治療薬の開発が喫緊の課題となっている。しかしながら、ウイルスが急速に変異を繰り返している現状では、逃避変異に対抗しうる戦略の一つとして、抗ウイルス宿主因子の発現を有効利用することも、治療オプションの一つとして視野に入れる必要がある。そして現在着手している宿主膜タンパク質MARCH8もその候補になり得るのではないかと我々は考えている。前回の研究報告書において、我々は、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)のスパイク(S)蛋白質シュードウイルスの感染性がMARCH8発現によって殆ど影響を受けない旨を報告した。しかしその実験系においては、Sの受容体であるACE2が低発現の培養細胞株を使用していたため、低いレベルの感染状態を観察していたことを先ごろ我々は見出した。今回新たに予備実験として、ACE2および共因子のTMPRSS2を強制発現させた細胞を感染実験に用いたところ、SARS-CoV Sシュードウイルスが非常に高い感染効率を示すと同時に、MARCH8発現量依存的に感染阻害を受けている可能性が認められた。そこで最終年度において、SARS-CoV SおよびSARS-CoV-2 SのMARCH8感受性を検討し、感受性が明らかに認められた場合、その感染阻害メカニズムについて、ユビキチン依存型か、エンドサイトーシス依存型か、または第三の抑制機構によるものかについて検証を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:年度末納品等にかかる支払いが令和2年4月1日以降となったため。 使用計画:当該支出分については次年度の実支出額に計上予定であるが、令和元年度分についてはほぼ使用済みである。
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