我々が世界に先駆けて報告した新規抗ウイルス宿主因子MARCH8(Nat Med. 2015)の、種々のエンベロープウイルスに対する抗ウイルス活性の範囲について検討する過程で、感染に用いるシュードウイルス量を野生型と変異体で正確に合わせる必要があることから、発光型ペプチドタグを用いた正確・簡便・安価でかつ超迅速なウイルス定量システムを前年度に樹立した(J Biol Chem. 2020)。その矢先に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるパンデミックが起き、その後まもなく世界中でSARS-CoV-2スパイク蛋白質(S)の変異体が相次いで出現したことから、我々は急遽、複数のS変異体の発現プラスミドを作製して、上記シュードウイルス定量系を利用した感染性アッセイを試みた。その結果、世界中で急速に感染拡大しているD614G変異体が武漢型プロトタイプSと比較して最も高い感染性(~3.5倍)を示した。更にその結果に矛盾せずD614G変異体は武漢型に比べて高いACE2結合性を示すこと、しかしD614G変異体の中和抗体感受性は武漢型のそれと変わらないことを明らかにした(Nat Commun. 2021)。一方、MARCH8の抗ウイルススペクトラムについては、同様のシュードウイルス定量系を用いて、前々年度に検討した狂犬病ウイルス(RABV)G蛋白質、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)GP蛋白質に加えて、上記のSARS-CoV-S、SARS-CoV-2-S、そしてチクングニアウイルスおよびロスリバーウイルスのエンベロープの機能がMARCH8に抑制されることを明らかにした。更に上記ウイルスエンベロープの細胞質領域リジン残基がMARCH8の標的となって、ユビキチン化された後にリソソーム分解されることを明らかにした(査読前論文としてbioRxivで公開中)。
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