研究課題
交付申請書に記した研究目的に即し、研究代表者は“何がDNAの能動的及び受動的脱メチル化を区別するのか“という学術的な問いに答えるべく研究を行った。この課題はエピジェネティック分野のもう一つの柱であるヒストン修飾と密接に関連しており、本年度の論文発表は以前から研究に取り組んでいたヒストン修飾に関するものが中心であった。筆頭著者として一報の総説を発表し、今まで行ってきたT細胞のエピジェネティック研究で得られた知見について総括を行った。また、共著者として六報の原著論文を発表したが、そのほとんどは研究代表者が得意とするバイオインフォマティックに関する部分を担当したものである。解析したデータは、公共データベースのGene Expression Omnibus (GEO)にて全て公開しており、世界中の研究者が簡便にアクセス可能な有用なリソースの構築の一端を担うことができた。上記のうちの一報は気道炎症とAmphiregulinとの関係について報告したものであり、その内容は新聞やインターネットのヤフーニュースでも紹介されるなど、世間の注目を集めるものであった。DNAの脱メチル化に直接関与するパートは研究開始からの期間が短く、具体的な研究成果としては発表できていないが、Inhouse Seminarや様々共同研究機関とのmeetingなどで途中経過の発表やdiscussionを行っている。共同研究先は、国内外の産学官と多岐に渡っており、国際的、学際的なネットワークの構築の実績も得られることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記した研究計画即して記載する。(項目1)として記載した、DNAのヒドロキシメチル化(5mhC)及びメチル化(5mC)のゲノムワイドなレベルでの解析に関してはほぼ予定通り実験を進めることができた。5hmCを検出するCMS-IPのデータ取得並びに解析が終了し、ナイーブCD4 T細胞がTCR刺激を受けて各サブセットへ分化していく際のDNAのヒドロキシメチル化が起こる領域をゲノムワイドに明らかにすることができた。また、(項目2)として記載した、DNAの受動的及び能動的脱メチル化に関わる分子の機能解析では、 (i)Tdg, (ii)Dnmt1, (iii)Tetの欠損マウスを用いて実験を行った。具体的には、DNA脱メチルをBS-seqにて、Th1/Th2/iTregサブセットへの分化、サイトカイン産生、転写因子の発現を、FACSやqPCRにて解析した。その結果、Th2細胞において発現するIL4遺伝子の脱メチル化は、Tdg非依存的かつTet依存的に起こることを突きとめた。また、Tetのpotentiatorである(iv)Ogtの欠損マウスも解析し、Ogtの欠損でIL4の産生が著しく低下することも見出した。さらに、Tetと同じCXXCドメインを有するヒストン修飾酵素Cxxc1の欠損マウスの解析も、前年度から継続して取り組んだ。こちらに関しては論文投稿準備中であり、できる限り早めに投稿したいと考えている。以上のように、予定していた研究内容は順調に進み、さらには当初の計画にはなかった新たな分子Ogtの解析にも着手するなど、現時点での達成度は十分であると考えている。
交付申請書の計画に沿って研究を進めることを基本とする。当初の計画よりも進捗が早いので、計画を前倒ししながら進めていく予定である。DNAのヒドロキシメチル化及びメチル化のゲノムワイド解析は、当初はBS-seq(5mCと5hmCの両方を検出)やoxBS-seq(5hmCを検出)により一塩基レベルで調べる予定であった。2018年に、C、5mC、5hmC、5fC、5caCの全てのシトシン修飾を検出する方法が発表されたこと(pyridine-borane; PB法)を受けて、こちらの方法も試す予定である。PB法のもう一つの利点は、ゲノムDNAの断片化を最小限に抑えることできる点であり、最大10kb程の長鎖DNAのメチル化状態を一分子内で解析可能となる。新しい実験手法の確立は手間のかかるプロセスであるが、得られる情報量は従来の方法と比べて格段に大きいため、十分にチャレンジする価値のある手法であると考えている。DNAの受動的及び能動的脱メチル化に関わる分子の機能解析では、引き続き(i)Tdg、(ii)Dnmt1、(iii)Tet、(iv)Ogtの欠損マウスを解析していく予定である。これらのマウスからT細胞を単離して、上記のPB法によりシトシン修飾を網羅的に解析することも計画している。ヒストン修飾酵素Cxxc1の欠損マウスの解析も同時進行で行う予定である。現在の進捗状況の項目に記入した通り、IL4遺伝子座では受動的脱メチル化が起こることが分かった。当面の目標は、能動的脱メチル化の起こる領域を明らかにすることであるので、上記の遺伝子欠損マウスを適宜活用して該当領域の同定を試みたい。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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