研究課題/領域番号 |
18K07165
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
八木 良二 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任准教授 (20392152)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Th9 / T細胞 / サイトカイン / ヘルパーT細胞 |
研究実績の概要 |
ナイーブCD4T細胞はT細胞レセプターを介してMHC上に提示された外来抗原由来のペプチドを認識し、そのときにIL-4とTGFbを受け取ることでヘルパーT細胞のサブセットの一つであるTh9細胞に分化誘導する。Th9細胞はTh2細胞と類似した免疫応答を誘導することが知られており、寄生虫感染時に分化誘導される。また、メラノーマを排除するという報告もあり、ガンとの関連が強く示唆されている。さらに、アレルギー性疾患の患者で末梢血中にTh9細胞が観察されることから、Th9細胞がアレルギーの増悪に関与すると考えられている。私はTh9細胞分化のメカニズムを解明し、ガン治療に応用できる可能性について研究を行なった。 これまでの研究から転写因子GFI1がCD4T細胞からのIL-9産生を抑制的に制御していることを見出した。そのメカニズムとして、GFI1欠損細胞は、低濃度のIL-4とTGFbでもTh9細胞に分化できることから、GFI1はTGFbとIL-4シグナルの感受性を抑制していることが示唆された。そこで、GFI1欠損とGFI1野生型Th9細胞からmRNAを抽出し、RNAseqによりサイトカインシグナルを制御しているような分子や転写因子の発現を調査したが、注目に値するものは見出せなかった。そのため、ナイーブCD4T細胞に着目し、GFI1欠損とGFI1野生型ナイーブCD4T細胞からmRNAを抽出し、RNAseqにて調査することを計画している。 IL-9はTh9細胞だけでなく、Th17細胞からも産生されることが報告されている。そこで、GFI1欠損とGFI1野生型Th17細胞から産生されるIL-9を比較したところ、その産生量にほとんど違いがなかった。つまり、IL-6シグナルの感受性については、GFI1の関与は極めて低いことが示唆された。この点をヒントにして、引き続きメカニズムを解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りTh9細胞分化のメカニズムを解明する実験、および抗腫瘍効果を検証する実験を行い、以下の成果を得たため。 1) GFI1欠損とGFI1野生型Th9細胞からmRNAを抽出し、RNAseqによりサイトカインシグナルを制御しているような分子や転写因子の発現を調査した。興味深い結果として、クロマチン修飾に関連する分子の遺伝子発現量が異なることから、GFI1を欠損することで、T細胞が活性化した後に生じるクロマチンのダイナミックな変化が阻害されることで、IL-9の産生が増強した可能性も示唆された。クロマチンの変化に着目してさらに解析を進める。 2) IL-9はTh9細胞だけでなく、Th17細胞も産生することが報告されている。Th9細胞はTCRからの刺激とIL-4とTGFbで分化し、一方、Th17細胞はTCRからの刺激とIL-6とTGFbで分化する。GFI1欠損とGFI1野生型Th9細胞では、GFI1欠損によって、IL-9産生が増強したが、GFI1欠損とGFI1野生型Th17細胞では、その差はわずかにあるものの、Th9細胞で観察できた違いと比較して明らかに減弱していた。GFI1はIL-4シグナルを抑制し、IL-6シグナルにはほとんど影響を与えないと考えられた。IL-4シグナルとIL-6シグナルの違いを手がかりにしてGFI1の役割を解明する。 3) GFI1欠損とGFI1野生型マウスにオボアルブミンを発現するメラノーマB16-ovaをマウスの皮下に移入し、継時的に移植したガン細胞が形成する腫瘍のサイズを測定した。GFI1欠損マウスに移植された腫瘍の方がよりサイズが小さく抑えられる傾向にあるものの、その差が極めて小さいときもあり、リンホーマE.G7(EL4-ova)など別のガン細胞を用いるなど、さらに条件を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
1) GFI1欠損とGFI1野生型Th9細胞におけるクロマチン修飾のステータスを比較する。 2) GFI1欠損とGFI1野生型ナイーブCD4T細胞からmRNAを抽出し、RNAseqにて調査する。 3) リンホーマE.G7(EL4-ova)など別のガン細胞を用いて再検討する。
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