現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、当初計画した1),2),4)の3項目を中心に課題を進めた。1)について、SP-Dによって制御された腸内細菌叢のどのような因子が、どのように分子機構で腸管恒常性維持に貢献するのかを解明するため、大腸粘膜固有層のT, Bリンパ球、樹状細胞、マクロファージの各細胞群の頻度や活性化について検討したが明らかな差は認めなかった。一方、免疫細胞を採取し炎症性サイトカインや抑制性サイトカインの遺伝子発現を検討した結果、SP-D遺伝子欠損(SP-D KO)マウスでは野生型(WT)マウスに比較して大腸におけるIL-22の発現が有意に低下していることが明らかになった。過去の報告より、大腸におけるIL-22はグループ3自然リンパ球(ILC3)やTh1細胞、γδT細胞から産生されており、多様な機構で腸管上皮のバリア機能の維持していることが明らかにされている。そのため、どのような細胞集団がIL-22を産生しているか検討し、また、大腸上皮のバリア機能を検討するため上皮細胞を採取し網羅的遺伝子解析を、SP-D KOマウスとWTマウスで比較検討を行なっているところである。2) のSP-Dの胆嚢の恒常性や疾患への関与についての検討では、胆石形成モデルや自己免疫性の胆嚢疾患である原発性硬化性胆管炎(PSC)について検討を開始した。前者では、胆石生成性の高脂食餌の投与準備を行った。後者では、PSCのモデルであるAbcb4遺伝子欠損(Abcb4 KO)マウスを入手しSP-D KOマウスの交配を開始した。4)の腸内細菌叢を制御する胆嚢由来分子を探索するため、胆嚢のRNA-seq解析を行い、Lipocalin2, Lipocalin6, PepsinogenC, S100a6, S100a10などの抗菌分子の発現が上昇していることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、SP-D欠損による腸内細菌叢のdysbiosisにより、大腸におけるIL-22の産生低下が原因となり大腸炎感受性が高くなることが推測された。一方、胆嚢ではSP-D以外にも、Lipocalin2, Lipocalin6, PepsinogenC, S100a6, S100a10などの抗菌分子の発現が、大腸炎により誘導されることが明らかになった。そのため今後の研究は以下の3項目に沿い行なっていく。1つめは、SP-D欠損によるdysbiosisにおいて、どのような分子機構が大腸IL-22の産生を低下させるかを明らかにする。そのため、フローサイトメトリー解析により大腸粘膜におけるIL-22産生細胞を明らかにし、さらにIL-22低下による腸管上皮バリア機能低下の有無を、大腸上皮の網羅的遺伝子解析や腸管透過性アッセイにより検討する。また、SP-D KOマウスと野生型マウスの糞便メタボローム解析を行い、IL-22産生低下に関与する代謝産物を検討する。また、SP-D欠損マウスにおける大腸炎の悪化にIL-22が関与しているかを検討するため、リコンビナントIL-22を投与し大腸炎が改善するかを検討する。二つめは、SP-Dの胆嚢疾患への関与を明らかにするため、PSCモデルのAbcb4 KOマウスや食餌による胆石モデルを用いて引き続き検討を続ける。三つめに、胆嚢組織のRNA-seq解析から見出した、大腸炎により上昇が認められた上述の候補分子について、qRT-PCR法による再検証を行なうとともに、ELISA法にて胆汁中のタンパクレベルでの発現を確認する。大腸炎による発現上昇が最終的に確認されたものについて、その遺伝子欠損マウスを入手し、胆嚢疾患や大腸炎に感受性や腸内細菌叢について検討し、胆嚢抗菌ペプチドの役割について検討する。
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