研究課題/領域番号 |
18K07167
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳井 秀元 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (70431765)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HMGB1 / DAMPs / 自然免疫受容体 / 炎症 / がん / 死細胞 |
研究実績の概要 |
死細胞や障害を受けた細胞、がん細胞などに由来する自己由来分子は、自然免疫受容体などによる認識を介して免疫応答を活性化すると考えられている。この様な自己由来分子の代表例の一つとしてHMGB1(High-mobility group box 1)タンパクが知られている。これまでの我々の解析から、HMGB1は炎症性細胞である好中球などの遊走を促進し、炎症病態やがんの増大に関与する可能性を示す知見が得られている。そこで、本研究において、HMGB1による好中球の遊走メカニズムの解明と疾患病態の増悪との関連性について解明を行う。 本年度における解析から、腫瘍細胞をマウスに移植した際にHMGB1が血中に放出されること、また、腫瘍中の好中球が増加することが判明した。細胞外に放出されたHMGB1が好中球の遊走に関与している可能性が考えられた。HMGB1の受容体として考えられているRAGE遺伝子欠損マウスの皮下に腫瘍を移植すると、腫瘍の大きさに減弱が見られ、また腫瘍中の好中球の浸潤も低下することが分かった。これらのことから、腫瘍細胞から放出されたHMGB1がRAGE受容体を介して好中球の浸潤を促進し、腫瘍を増大させる可能性が示唆された。またさらに、HMGB1を人為的に細胞外に放出させる系を構築した。 HMGB1による腫瘍の増大について、HMGB1を標的とした阻害剤の投与によって腫瘍の大きさが減弱することも見出された。また、免疫チェックポイント阻害剤による腫瘍縮小効果をも増強することが判明した。HMGB1はがん治療における標的分子の一つとなりうる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、研究は順調に進捗している。担がんマウスにおいて血中にHMGB1が放出されること、また、腫瘍の大きさと血中のHMGB1量には相関があることが明らかとなった。腫瘍中からHMGB1が放出されていると考えられる。このように放出されたHMGB1は好中球の遊走に関与することが示唆された。ここには自然免疫受容体が関与していることを示す予備知見も得られた。したがってHMGB1は炎症を促進する方向に関与していると考えられる。腫瘍のモデルで見られた減少が他の炎症モデルでも見られるかどうか、さらに検討していく。また、HMGB1を恒常的に放出する系の構築にも成功した。この系を用いることにより、細胞外HMGB1の機能について、種々のマウスモデルを用いて検討することが可能となったこ。本材料を利用して、さらに解明を進めていきたい。 このようなことから、本研究課題は、一部当初予想とは異なった結果が得られつつも、一定の目的を達成しながら、順調に進展してきているものと考えている。今後、その詳細を明らかにし、論文として成果を公表することを目指している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、当初の研究実施計画に沿って検討を進めていく。腫瘍のモデルにおいて、HMGB1が放出され、好中球の遊走への関与が示唆された。したがってHMGB1は炎症を促進する方向に関与していると考えられる。腫瘍のモデルで見られた現象が他の炎症モデルでも見られるかどうか、さらに検討していく。RAGE受容体の関与が示唆されたが、実際にどのようにRAGE受容体を介して好中球の遊走を促進してるのか、その詳細について解析を進めていく。 本解析において、さらにHMGB1を人為的に放出する系を構築することができた。現在、この放出型HMGB1を発現するノックインマウスを作成しており、炎症との関わりについて検討を行う予定である。放出されたHMGB1が主にどのような生命現象に関わっているのか、明らかにできる可能性があると考えている。これら一連の解析を通して、HMGB1による炎症促進メカニズム、個体レベルでの重要性を明らかにし、論文として公表したいと考えている。
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