研究課題
本研究では、がん抗原特異的なT細胞受容体(TCR)遺伝子を、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、ヒトiPS細胞の内在性TCR遺伝子座へノックインすることを目的とした。まず実験系を確立するために、ヒトT細胞白血病株Jurkat細胞を用いて実験を行い、導入したTCRを正しく発現させることに成功した。そこでiPS細胞でも同様に実験を行い、カセット交換法でTCR遺伝子をノックインすることができたため、T細胞へ分化誘導したところがん抗原特異的に細胞傷害活性を示すことが確認できた。さらにカニクイザルのがんモデルを作出するため、優性変異型p53CT、CDK4、活性化型KRAS(G12V)、テロメラーゼ逆転写酵素TERTの4つのがん関連遺伝子をドキシサイクリン誘導性に発現するトランスジェニック(Tg)サルの作製を行い、2頭が出産した。他のTgサルと比較して妊娠効率が低いことから、レンチウイルスベクターを改良し、改良ウイルスを用いてTgサルの作製を行い、さらに2頭が出産した。このうち1頭の胎盤において、遺伝子導入のマーカーであるGFPとクサビラオレンジの蛍光が確認され、4つのがん関連遺伝子がゲノムDNAに挿入された産仔を得ることができた。併行してMHCホモサル由来の腫瘍細胞をMHCヘテロサルに移植し、腫瘍組織に浸潤したT細胞や、腫瘍細胞を繰り返し移植することで迅速に腫瘍細胞を拒絶するMHCヘテロサルの末梢血中T細胞からシングルセルレベルでTCRα鎖とβ鎖の遺伝子をセットで単離した。その中から出現頻度の高いTCR遺伝子セットを選択し、再生T細胞に遺伝子導入したところ、腫瘍細胞を殺傷できるTCR遺伝子を同定することに成功した。
3: やや遅れている
本研究では、がん抗原特異的なTCR遺伝子を、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、内在性TCR遺伝子座へノックインするために、まずJurkat細胞を用いて実験を行い、導入したTCRを正しく発現させることに成功した。そこでiPS細胞でも同様に実験を行ったが、薬剤耐性遺伝子カセットのノックインはできたが、カセット交換ができなかった。カセット交換が起きるとPuromycin耐性遺伝子がPGKプロモーターにより発現するが、そのプロモーター活性がiPS細胞では低い可能性が考えられた。そこでPGKプロモーターを、iPS細胞で活性が高いことが知られているEF-1αプロモーターと交換したところ、再現性よくカセット交換ができるようになった。この原因解明と方法改善のために時間を要した結果、研究の遂行に遅れが生じている。さらに4つのがん関連遺伝子をドキシサイクリン誘導性に発現するトランスジェニック(Tg)カニクイザルの作製を行い、2頭が出産した。他のTgサルと比較して妊娠効率が低いことから、レンチウイルスベクターを改良し、改良ウイルスを用いてTgサルの作製を行い、さらに2頭が出産した。このうち4つのがん関連遺伝子がゲノムDNAに挿入された産仔を1頭得ることができたものの、通常得られるよりも産仔数が少なく、機能解析に充分な産仔が得られるまでにはまだ時間がかかると予想される。併行してMHCホモサル由来の腫瘍細胞をMHCヘテロサルに移植し、腫瘍組織に浸潤したT細胞などからTCR遺伝子を単離し、レパートリー解析を行い、高い出現頻度を示すTCR遺伝子を同定することができた。これらのTCR遺伝子をT細胞へ導入する実験を試みたが、効率よく遺伝子を導入することが困難であり、方法の改善をはかるのに時間がかかったため、やや研究に遅れが生じている。
1)iPS細胞でも薬剤耐性遺伝子のプロモーター交換により、再現性よくカセット交換ができるようになり、TCR遺伝子を内在性TCR遺伝子座へノックインすることができたため、T細胞へ分化誘導したところがん抗原特異的に細胞傷害活性を示すことが確認できた。そこでTCR遺伝子をノックインした再生T細胞が、生体内でも抗腫瘍活性を示すか確認する。具体的には、免疫不全マウスに腫瘍細胞を移植したのち、再生T細胞を移入し腫瘍の成長が抑えられるか、さらにマウスの延命や治療効果が見られるか解析を行う。2)カニクイザルのがんモデル作製では、これまでに計4頭の産仔が得られ、このうち1頭で4つのがん関連遺伝子がゲノムDNAに挿入された産仔を得ることができた。引き続き充分な産仔数が得られるまで作製を続けるとともに、産出されたサルには適切な時期(1歳半から2歳頃を予定)にプログラムポンプを埋込み、ドキシサイクリンの投与により腫瘍が発症するか検討を開始する。腫瘍発生には時間がかかると予想されることから、ポンプを埋め込む前から生検した皮膚組織等を培養し、ドキシサイクリンにより腫瘍化しないか検討する。3)MHCホモ腫瘍細胞のMHCヘテロサルへの移植実験で、腫瘍組織に浸潤したT細胞で高い出現頻度を示すTCR遺伝子セットを再生T細胞に導入したところ、腫瘍細胞を殺傷できるTCR遺伝子を同定することができた。そこでTCR遺伝子を導入した再生T細胞が、生体内でも抗腫瘍活性を示すか確認する。具体的には、1と同様に免疫不全マウスに腫瘍細胞を移植したのち、再生T細胞を移入し腫瘍の成長が抑えられるか、さらにマウスの延命や治療効果が見られるか解析を行う。
昨年度までにがん抗原特異的なTCR遺伝子を、ゲノム編集とカセット交換法を用いて、iPS細胞の内在性TCR遺伝子座へノックインする計画であったが、薬剤耐性遺伝子カセットのノックインはできたものの、カセット交換ができなかった。薬剤耐性遺伝子のプロモーターを改良することによって、再現性よくカセット交換ができるようになったが、この原因解明と方法改善のために時間を要した結果、研究の遂行に遅れが生じた。さらに4つのがん関連遺伝子をドキシサイクリン誘導性に発現するTgカニクイザルの作製を行い、2頭が出産した。他のTgサルと比較して妊娠効率が低いことから、レンチウイルスベクターを改良し、改良ウイルスを用いてTgサルの作製を行い、さらに2頭が出産した。通常得られるよりも産仔数が少なく、機能解析に充分な産仔が得られるまでにはまだ時間がかかると予想される。併行してMHCホモサル由来の腫瘍細胞をMHCヘテロサルに移植し、腫瘍組織に浸潤したT細胞などからTCR遺伝子を単離し、レパートリー解析を行い、高い出現頻度を示すTCR遺伝子を同定することができた。これらのTCR遺伝子をT細胞へ導入する実験を試みたが、効率よく遺伝子を導入することが困難であり、方法の改善をはかるのに時間がかかったため、やや研究に遅れが生じている。以上の結果をふまえ今年度に計画していた実験を引き続き次年度に実施することになったため。
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iScience
巻: 23 ページ: 100998
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http://www.shiga-med.ac.jp/~hqbioch1/public_html/publish.html