研究実績の概要 |
ウイルス蛋白質の中には宿主の翻訳後修飾反応系を利用し、そのN末端に炭素数14の飽和脂肪酸であるミリスチン酸による修飾を受けて機能するものが存在する。例えば、ヒト/サル免疫不全ウイルス(HIV/SIV)が持つNef蛋白質はこのミリスチン酸修飾を受けることで、その免疫抑制蛋白質としての機能を発揮する。研究代表者はサルエイズモデルを用いた詳細な免疫解析から、ミリスチン酸修飾を受けた4-5残基のペプチド抗原、すなわち「リポペプチド」がキラーT細胞の標的分子となることを明らかにした。そして、このリポペプチド免疫応答を担う責任分子は新しいタイプのMHCクラス1分子「LP1」であることを実証してきた。
本年度の主要な研究実績として、リポペプチド免疫認識の分子機序を解明した。アカゲザル由来のリポペプチド提示MHCクラス1分子であるMamu-B*05104がSIV nef由来の4-merリポペプチド抗原(C14nef4, C14-Gly1-Gly2-Ala3-Ile4)を結合し、特異的なT細胞(SN45)を活性化できることに着目し、C14nef4リポペプチド結合Mamu-B*05104とSN45 T細胞受容体(TCR)の各リコンビナントタンパク質を調製し、その共結晶構造を解明した。意外なことに、SN45 TCRは主にミリストイル化Gly1残基との相互作用によって、リポペプチド抗原を認識していた。一方で、他のペプチド部分(Gly2-Ala3-Ile4)との相互作用は観察されなかった。この認識様式は、多数のアミノ酸残基がT細胞応答に関わるペプチド抗原とは異なる、新しいT細胞認識メカニズムである。
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