ペア型レセプターの抑制化型レセプターは通常、HLAなど自己抗原を認識し、自己を攻撃しないように制御している。ところがこのシステムを利用して、持続感染性ウイルスや熱帯熱マラリア原虫は宿主の免疫応答を逃れていることが明らかとなってきた。この抑制化型レセプターを利用した免疫逃避機構はガンの免疫逃避機構としても報告されている。 また、感染初期には、病原体を排除する免疫細胞活性化を惹起する免疫反応と同時に、過剰な免疫応答を抑制する免疫システムが誘導される。このシステムにペア型レセプターが関わっていることが示唆されている。本研究は、病原体感染時に脳の細胞ではどのような免疫反応が惹起されているのかを、ペア型レセプターの観点から解明する。 まず初めに脳内での免疫担当細胞でミクログリアに発現しているペア型レセプターについて解析するため、実験システムを立ち上げた。ただし、脳研究ではヒト材料に限界があるので、マウスでの実験系を立ち上げた。 2022年度は、マウスの脳の免疫細胞について抑制化型レセプターの発現を調べたところ、ミクログリアや末梢由来のマクロファージに既知の多くのレセプターが発現していた。その発現量はレセプターによって多種多様であり、末梢由来マクロファージにおいてはLPS投与によってその発現が上昇するものや不変のものがあった。次にLPS投与によって大きく発現が変動する抑制化型レセプターについて詳細を検討した。結果、LPS投与されたマウスの脳内では抑制化型レセプターの発現が上昇し、また、そのリガンド分子の発現も上昇していること、レセプターとリガンドが隣接していることが脳の組織切片の染色により明らかとなった。このことにより、LPS投与によって免疫活性化に偏る免疫応答が悪影響を及ぼさぬよう脳内で免疫活性化のブレーキをかけていることが示唆された。
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