研究課題/領域番号 |
18K07177
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
市山 健司 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (60777960)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 長鎖非翻訳RNA / Foxp3 / CRISPRi |
研究実績の概要 |
平成30年度は、Satb1を介した制御性T細胞(Treg)特異的なエピゲノム形成およびTregの分化・増殖機構の分子基盤の確立を目指し、特にSatb1と複合体を形成する転写因子Ikzf1のTregにおける役割を中心に解析を行った。具体的には、まずIkzf1蛋白の種々のドメイン欠損変異体を作製し、それらを用いてSatb1との免疫沈降実験を行うことで両因子の複合体形成に重要なIkzf1のドメインを生化学的な手法により同定した。さらに、生理的な役割を検討するため、Treg特異的にIkzf1のDNA結合能を欠失した遺伝子改変マウスを作製し、その解析を行った。その結果、TregでIkzf1の機能が欠失することでマウスが自己免疫性の炎症疾患により早期に死亡し、Tregの分化・増殖および免疫抑制機能に異常が生じることを見出した。 また近年、標的遺伝子の発現を人為的に抑制する新たな方法として従来のsiRNAやshRNA、アンチセンスオリゴと比較して安価で特異性も高いことからCRISPR/dCas9システムを利用したCRISPR interference (CRISPRi)が注目を集めている。そこで、Treg細胞における長鎖非翻訳RNA (LncRNA)を標的とした網羅的なスクリーニング系の確立を目的としてCRISPRiシステムを導入したノックインマウスを作製し、そのマウスの評価を行った。まず、CRISPRiマウスからCD4陽性T細胞を単離し、レトロウイルスの系を用いて標的遺伝子に対するgRNAsを導入後、数日培養して標的遺伝子の発現をRT-qPCRにより確認した。その結果、CRISPRiにより翻訳RNA (Cd4およびFoxp3)だけでなくLncRNA (Neat1およびMalat1)の発現も特異的かつ顕著に(95%以上)抑制され、非常に有用なスクリーニング系を樹立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初予定していたSatb1の複合体形成に関与する新規LncRNAの同定まで進むことはできなかったが、その代わりにSatb1の胸腺における結合因子である転写因子Ikzf1のTreg特異的機能欠損マウスを作製することに成功し、その解析からTregでIkzf1の機能が欠失するとマウスが自己免疫性の炎症疾患を発症し、早期に死亡すること、さらにIkzf1がTregの増殖や維持、転写因子Foxp3を介した免疫抑制機能において重要な役割を担っていることが示唆された。 またLncRNAに関しても、今回、CRISPRiのシステムを導入したノックインマウスを作製することで、翻訳RNAだけでなく非翻訳RNAに対しても従来の遺伝子発現抑制法(RNAi、アンチセンスオリゴなど)と比較して非常に特異的かつ強力な発現抑制を可能とする新規の実験系を確立することに成功した。 これらの進捗状況から、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、Tregの分化および免疫抑制機能に関与する新規LncRNAの同定を目的に、今回確立したCRISPRiマウスを用いて、Treg特異的なエピゲノム形成(スーパーエンハンサーの形成、DNAの脱メチル化)やTreg分化(Foxp3発現誘導)、免疫抑制機能(suppression assay)に影響を及ぼすTreg特異的なLncRNAの網羅的スクリーニングを推し進める。具体的にはRNA-Seqの結果から予想されるT細胞もしくはTreg細胞で高発現している全LncRNAに対するgRNAsのライブラリーを作製し、先ずはFoxp3の発現を指標にスクリーニングを試みる。 また、Satb1を介したTreg分化制御の詳細な分子機構を明らかにするために、Ikzf1によるTreg分化制御および免疫抑制機能制御についてより詳細なメカニズムの検討を行う。特にIkzf1の機能欠損によりSatb1を介したTreg特異的なエピゲノム形成にどのような影響が及ぶのか、同様にIkzf1の機能欠損によりFoxp3を介した遺伝子発現制御にどのような影響が及ぶのかRNA-Seq法およびChIP-Seq法を用いて網羅的な解析を進める。
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