研究実績の概要 |
令和2年度は、Satb1と複合体を形成する転写因子Ikzf1のTregにおける役割を中心に解析を進めた。具体的には、Treg特異的にIkzf1のドミネガ変異体を発現する遺伝子改変マウスを用いて、Tregの分化維持機構および免疫抑制機能に及ぼす影響について解析を行った。その結果、TregでIkzf1の機能が欠失すると、Tregが炎症性サイトカインであるIFN-γを高産生するようになり、それが原因で転写因子Foxp3の発現抑制を介した免疫抑制機能の異常が生じることを明らかにした。さらに、詳細な分子機構として、野生型のIkzf1はTregにおいてFoxp3と複合体を形成するが、Ikzf1変異体ではそのFoxp3複合体形成が阻害され、Foxp3によるIFN-γ産生抑制機能に異常が生じることでIkzf1変異TregからIFN-γが高産生することが明らかとなった。 また、Tregの分化に関与する新規長鎖非翻訳RNA(LncRNA)の同定を目的として、独自に樹立したCRISPRiシステムを用いた大規模なスクリーニングを行った。具体的には、まずT細胞で発現する全18,652 LncRNAsに対してそれぞれ5つのsgRNAs を設計した。次に、CRISPRiシステムおよびFoxp3-hCD2レポーターを発現するCRISPRiマウスの脾臓およびリンパ節からCD4陽性T細胞を単離し、レトロウイルスの系を用いて設計した各sgRNAsを導入後、Treg分化条件下でそれぞれ3日間培養した。培養後、hCD2の発現を指標にしてTregの分化誘導効率が低い細胞集団および分化誘導効率が高い細胞集団をFACSソーティングで回収してそのゲノムDNAを抽出後、ライブラリー化し、次世代シークエンサーに供した。その結果、Treg分化制御因子の候補として多くの新規LncRNAを同定することに成功した。
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