研究課題/領域番号 |
18K07185
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
宮武 昌一郎 麻布大学, 生命・環境科学部, 教授 (30239420)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GATA3 / 皮膚炎 / 免疫チェックポイント / CTL / 転写因子 / MC903 |
研究実績の概要 |
T細胞において、転写因子GATA3の二つのZnフィンガーの両方を欠失した変異体(2FGATA)を発現するマウスと、C末端側Znフィンガーのみを欠失した変異体(1FGATA)を発現するマウスを比較すると、CD4+T細胞の分化阻害などの共通の表現型だけでなく、1FGATAにおいてのみ、皮膚炎の発症を認めた。さらに1FGATAにおいてMHC class IIを欠失させると、皮膚炎は悪化した。この2種類のGATA3変異マウス系統を用いて、皮膚炎発症のメカニズムを明らかにする。そのために、この2系統で免疫応答が異なる疾患モデルを樹立する。また、GATA3変異マウスのT細胞は、ほぼCD8+T細胞である。そこで、2種類の変異GATA3がCD8+T細胞の機能にどの様な影響をもたらすのか、転写因子としてのGATA3の機能の変化に着目して明らかにする。皮膚炎を起こすことから、皮膚のresident memory CD8+ T細胞を中心に解析する。MHC class II欠失による炎症の悪化は、MHC class IIが何らかの免疫チェックポイント機構に関与することを示唆する。その候補の1つは、MHC class IIと結合するLAG3である。GATA3変異マウスの皮膚炎において、LAG3の関与を解明する。さらにLAG3以外のMHC class IIと相互作用する未知の分子の探索と、その免疫チェックポイントへの関与を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国内からのLAG3欠失マウスは、凍結受精卵を保有している施設が1箇所しかなく、そこから2回、凍結受精卵を搬入したが、凍結受精卵の状態が悪く、生体マウスは得られなかった。一方、抗LAG3抗体の新生仔への投与を行ったが、1FGATAとMHC class IIの二重欠失の表現型の再現は認められず、LAG3の関与は否定的となった。MHC class IIが関与する新たな免疫チェックポイント分子の探索を行う必要性が明らかとなった。また皮膚炎を発症しない2FGATAマウスとMHC class II欠失マウスと交配したところ、重篤な皮膚炎を発症した。これは、免疫チェックポイントを消失させることで、炎症が起きやすくなり、皮膚炎を発症したと考えることができる。MC903塗布による皮膚炎モデルにおいて、正常マウスに比べ、1FGATAマウスは、より強い炎症を起こした。1FGATAマウスでは2週間ほど炎症が進行した後、進行が停止することが認められた。T細胞の疲弊が、より早く誘導されている可能性があり、炎症を起こしやすいことと疲弊しやすいことが1FGATAマウスの特徴と考えられる。皮膚に浸潤している細胞群の解析から、CD8+T細胞の変化が、この原因と考えられ、サイトカイン産生パターンなどその実態を明らかにする必要がある。2FGATAマウスに対してMC903塗布による皮膚炎モデルを開始する。
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今後の研究の推進方策 |
MC903塗布による皮膚炎(アトピー性皮膚炎モデル)では正常マウスと1FGATAマウスにおいて、差異が見出された。このモデルでは、ILC2の皮膚への流入が重要な過程であることが報告されているが、1FGATAでは、それが抑制されていること、正常マウスでは皮膚でのCD8+T細胞は、それほど多くないが、1FGATAでは、皮膚に浸潤しているCD8+T細胞が非常に多く、それが皮膚のより強い炎症の原因と考えられる。今後、好酸球やマクロファージなど他の細胞群の解析、産生されるサイトカインの解析を行い、正常マウスと1FGATAマウスでの炎症誘導の機序の差異を明らかにする。2FGATAマウスでもMC903塗布による皮膚炎の誘導を行い、比較することで、CD8+T細胞の差異と皮膚炎を起こす能力との関係を明らかにする。MHC class IIが関与する免疫チェックポイントに関しては、2FGATAマウスにおいて、MHC class IIを欠失させることで、強い皮膚炎が誘導されたことからも裏付けられた。MHC class IIのパートナー分子としてLAG3が関与していないことが示唆されたことから、新たな分子の探索を行う予定である。MHC class IIとCD8+T細胞の関係について、新たな知見がもたらされると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学院生の獲得ができず、研究グループの形成に時間がかかっており、研究の遂行に遅れが生じている。研究計画の最終年度では、ChIP-seqやRNA-seqなどの網羅的解析を行う予定であり、支出が大幅に増大すると考えられる。
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