研究課題/領域番号 |
18K07188
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
角川 清和 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (80391910)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Themis / T細胞分化 / シグナル伝達 / 転写制御 |
研究実績の概要 |
T細胞特異的に発現しているThemisの遺伝子座はヒトのセリアック病、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、関節リウマチなどの自己免疫疾患との関連が示唆されている。また、Themisノックアウトマウスでは成熟T細胞が激減しており、ThemisがT細胞の分化成熟や機能に重要な働きをしていることは明らかであるが、その作用機序は明らかになっていない。これまで、ThemisタンパクはT細胞受容体シグナル伝達におけるアダプタータンパクとして働くと報告されてきたが、我々は細胞中の約半分のThemisタンパクが核に存在すること、Themisタンパクが細胞質にとどまるように変異を導入したThemis変異体ノックインマウス(R-NLSマウス)では、Themisノックアウトマウスと同様に成熟T細胞数が減少すること、を明らかにした。これらの結果からThemisが細胞核でも重要な役割を担っていることが明らかとなった。さらに、R-NLSマウスとは逆に核にとどまるThemis変異体のノックインマウス(SV40マウス)でもT細胞の分化成熟が阻害されたことよりThemisはT細胞受容体近傍のシグナル伝達に必須であることも確認された。これらの結果から、Themisタンパクは細胞質と核の両方に存在することがその機能に必要であることが示唆される。また、R-NLSマウスとSV40マウスの交配によってできたマウスでは核と細胞質にThemisが存在するが互いに他方の分画には移動できない。このマウスでもT細胞の分化は阻害されておりThemisの核と細胞質の相互移動が重要な役割をしていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Themisタンパク自体が細胞質から核へ移動するのが重要であるのか、さらにほかのタンパクを核へ移動させるのが重要なのかを検討するためERT2-Themis融合遺伝子をノックインしたマウスを樹立した。ERT2をThemisに結合することにより、Themisタンパクは常に細胞質にとどまり核には存在しないが、タモキシフェンの投与によりThemisタンパクを細胞質から核へ移動させることができる。N末にERT2を結合させた場合、細胞株での実験ではあるが投与1日後から核への移動が確認できた。また、このマウスではThemisタンパクはR-NLSマウス同様に細胞質にしか存在せずT細胞分化は阻害されている。つまり、細胞質のThemisだけではその機能を果たせないことがこの系でも確認できた。タモキシフェンの投与でT細胞分化が回復すれば細胞質から核へのThemisの移動がその機能に十分であることになる。 さらに我々はT細胞分化に重要な転写制御因子とThemisの会合を同定している。これはThemisが核で転写を調節している可能性を示唆しており、Themisに対するChIP-seqを行う準備を進めている。また、この転写因子のゲノムへの結合に与えるThemisの影響を調べるためこの転写因子のChIP-seqをThemisノックアウトマウスの胸腺を用いて行い、野生型と比較する予定である。ThemisのChIP-seqはFLAG tag ノックインマウスを用いる予定であるが、困難な場合はChIP-seqではなくCUT & RUNも試す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、胸腺細胞を用い、抗CD3抗体でのT細胞受容体の刺激の有無で核のThemis,細胞質のThemisに結合するタンパク質を網羅的に調べる。並行して、ERT2-Themisノックインマウスの解析を行う。このマウスはR-NLRと同様細胞質にのみThemisタンパクがある状況であり、胸腺、脾臓などの解析からほぼR-NLSマウスと同様の表現型を示している。つまり、Themisの核での働きが重要であることが再確認できている。しかしながら、リンパ節、腸、肝臓などのほかの臓器の詳細な解析を制御性T細胞、NKT細胞、CD4陽性細胞障害性T細胞なども含め行う。さらにタモキシフェンを投与してThemisを核に強制移行させたときのT細胞分化の解析はまだであるのでこれらを進める。後者にはタモキシフェンの投与量、回数、タイミングなどの条件検討が必要となるが、これはThemisの細胞内局在をウェスタンブロッティングにより確認する。 Themisの核での働きを明らかにするため、会合している転写因子に対するChIP-seqをThemisノックアウトマウスの胸腺細胞を用いて行う。野生型の胸腺での結果と比較し差がないか調べる。また、Themisに対するChIP-seqを行いThemisの転写制御因子としての可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
外注予定の次世代シークエンサー解析のサンプル調整が年度内に間に合わなかったため、その分の費用を繰り越すことになってしまった。
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