研究課題/領域番号 |
18K07189
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐藤 尚子 (高山尚子) 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 専任研究員 (90732446)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 粘膜免疫 / 自然リンパ球 / 分化・機能メカニズム |
研究実績の概要 |
近年、粘膜組織におけるユニークな免疫応答が明らかとなり、共生細菌と免疫応答の関係性に注目が集まっている。しかしながら、自然リンパ球(Innate lymphoid cells; ILCs)と共生細菌の関連性についてあまり明らかとなっていない。これまでのILCs研究では、ほとんどが腸管や肺の解析を報告したものが多かった。消化・吸収を行う腸管におけるILCsの動態を明らかにする事は、そこで生じる活性化・抑制かのシステムを知る上で必須である。通常、口から摂取または進入した抗原は、鼻・口腔の次に胃を通って消化管に進む。この時通過する胃は、主に殺菌・分解を行う臓器であり免疫応答を積極的に行う臓器であるという認識は低かった。しかしながら、最近の我々の研究により胃にも重要な免疫制御機構が存在し、そして防御的に機能していることが明らかになった(Immunity誌にて報告)。しかも前述の様に、基本的に共生細菌に非依存的であるという認識であったILC2であるが、胃のILC2は共生細菌の影響を受けるという事も明らかになってきた。小腸や肺に存在するILC2は無菌マウスにおいてもその細胞数やサイトカイン産生能に差は無いが、胃のILC2は無菌マウスで減少する。つまり、胃のILC2は他臓器に存在するILC2とは異なるユニークな役割を持つことを示唆している。この様に、共生細菌の関与が示された胃ILC2であるが、病原性細菌であるヘリコバクター・ピロリ感染によって増加し、さらにIL-5産生を誘導する事が分かった。実際に、ILC2特異的欠損マウスにピロリ感染を行ったところ、B細胞数の増減は見られずさらにIgA産生も減少していた。以上より、これまで報告されたILC2の様々な役割に加えて、粘膜組織においてILC2を介したB細胞の活性化とIgAによる防御の誘導が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者のこれまでの研究により、胃のILC2がPD-1を高発現していることを見出している。しかしながら、このILC2に発現しているPD-1がピロリ菌感染などにより変化するのかは不明であった。そこで、ピロリ菌感染前後においてPD-1の発現をフローサイトメトリー解析により比較したが、ILC2数の増加はみられたもののPD-1自体の発現には差がなかった。以上より、胃におけるILC2のPD-1発現は恒常的であり、ピロリ菌感染などによりその量が変化するものではないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、抗PD-1抗体によりPD-1をブロックすることでILC2の機能に差があるかを検討する予定である。PD-1はガンの増悪と密接な関係があることが知られているので、今後はピロリ感染モデルだけでなく、マウスを用いた胃がんモデル(MNU(N-methyl-N-nitrosourea:人工的にがんを誘導したマウス)などの用いて、ILC2とPD-1の関係性についても検討していく。以上により、これまで不明であった胃でのILC2と関連する免疫応答について明らかにすることができると考えられ、今後、胃に関連する疾患の予防・治療に役立つ可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、主にマウスの解析を行ったことや国際学会延期のために、使用額に差が生じた。2020年度はRNAseqなどを行う予定であり、繰り越された資金を使用する予定である。
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