研究課題
前年度報告した舌下免疫療法の著効群/無効群間および花粉症/健常コントロール間で有意な差が認められた苦味受容体(TAS2R)43の役割について治療2年目の解析を引き続き行った。特に、CD4+ T細胞の様々なリガンドに対する反応性とシグナル伝達系に焦点をあてた臨床免疫学の立場で、治療前~2年間の治療経過におけるTAS2R43遺伝子の個人プロファイルを作成し、免疫学的個性化を形成するバイオマーカーとしてオーダーメイド医療に結びつけた研究を展開した。その結果、TAS2R43遺伝子に注目し健常者と花粉症者を比較してみると有意に健常者においてTAS2R43の発現が上昇していた。一方、バイオマーカーとして候補が上がったTAS2R31を含めた3種のTAS2Rにおいて有意差は認められなかった。また、治療経過におけるTAS2R43と31の発現を2年以上観察してみると、1年で改善した患者のTAS2R43は有意に上昇していた。さらに1年目で治療改善しなかった患者も続けて治療を行うことによりTAS2R43が減少した治療改善群が増加した。また、in vivoにおける苦味受容体の役割を明らかとする為に、TAS2R43のアゴニストであるアロインやカフェインを花粉症患者CD4+ T細胞に作用させたところ、各種Th2サイトカイン発現が抑制され、TAS2R43を介したシグナルが細胞の活性化抑制に関与する可能性が考えられた。一方、治療著効群と無効群の血清中における舌下免疫療法の効果を示す物質を探索するため、ヒトCD34+ 細胞より分化させたマスト細胞に患者血清を作用させて脱顆粒実験を行なったところ、著効群血清中に脱顆粒抑制物質が増加していることが示唆される結果を得た。そこでiTRAQを用いてタンパク質の同定を試みたところ、5種類の候補を見出した。
3: やや遅れている
舌下免疫療法の治療計画において、令和2年の春季計画が外出規制などにより採血できない事態が発生している。可能な限り5月末までには患者の採血と臨床データの採取を行いたい。
最終年度の課題に向けて苦味受容体(TAS2R)の舌下免疫療法奏功機序への関与や治療効果予測バイオマーカーとしての可能性など、免疫におけるTAS2Rの新たな役割の一端をin vivoならびにin vitroにおいて総括的に解明する。そのために、治療前~3年間の治療経過(本課題の研究期間)における候補TAS2R遺伝子ファミリーの発現プロファイルを治療期間や効果などの要素を含めて総括的に作成し、免疫学的個性化を形成するバイオマーカーとしてオーダーメイド医療に役立てたいと考えている。一方でTAS2Rの免疫学的機能解析のためにヒト細胞培養株への強制発現系の構築も現在進めており、各種既知リガンドを単独あるいはT細胞活性化シグナルの存在下で作用させ、CD4+ T細胞におけるTAS2Rによる免疫応答とそのGタンパク共役シグナル伝達機構を明らかにすることにより舌下免疫療法の一端を解明する。また、TAS2Rファミリー分子の免疫学的役割を遺伝学的に解明するために全部または各部分的領域欠損マウスの作製を進めており、次年度はその機能を解析することを予定している。さらに、ヒトTAS2R43に相同する分子はマウスには存在しないため、本分子がマウスCD4+ T細胞のみに発現するTgマウスなどを作製することで、免疫細胞に発現するTAS2Rの生物学的意義に関する基礎的な知見と分子機構の探索を展開する礎にしたいと考えている。
計画通り予算を執行したが、端数が余ってしまったため次年度のin vitroの研究解析予算と合わせて適正に使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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