研究課題/領域番号 |
18K07194
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
園田 洋史 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80770205)
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研究分担者 |
田中 敏明 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (30647540)
畑 啓介 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (60526755)
野澤 宏彰 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (80529173)
川合 一茂 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (80571942)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大腸癌 / リン脂質性メディエーター / 質量分析法 |
研究実績の概要 |
リゾリン脂質(Lysophospholipids: LPLs)は、生体膜を構成する膜リン脂質がPhospholipase A1またはA2により加水分解されることにより産生される。近年、このLPLsが通常のサイトカインのように、細胞間シグナル伝達に関与することが知られるようになった。LPLsには極性頭部と脂肪酸鎖及びその結合部位により多様な分子種が存在する。この中には極少量でも特異的な機能を有するLPLsが存在することが明らかになってきており、病態との関連も注目されてきている。 近年タンデム型質量分析法 (LC-MS/MS)によるリン脂質解析法が開発され、ごく少量の検体でも、LPLsに対する高い検出感度・定量性が得られるようになった。我々は、この技術を大腸癌に応用し、大腸癌手術検体由来のLPLsをLC-MS/MSを用いて網羅的に解析することとした。 進行大腸癌の手術検体を用いて、大腸正常粘膜と大腸癌組織それぞれに含まれるLPLsを網羅的に比較定量したところ、大腸癌組織では、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)、リゾホスファチジルグリセロール(LPG)、リゾホスファチジルセリン(LPS)が正常粘膜と比較して増加していることが明らかとなった。さらに脂肪酸分子種についても解析を行ったところ1-acyl LPI(18:0)、2-acyl LPG(18:1)、1-acyl LPS(18:0)は著明に増加しており、大腸癌の発育進展に関与している可能性が考えられた。今後、これらLPLsの産生酵素や受容体の発現についても詳細に解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPLsはエネルギー的に不安定な化学結合を有しているため、生体サンプル内では恒常的に起きており、極めて不安定な構造物であるため、適切に検体回収方法を行うことでデータのばらつきを抑えることが可能となる。従って、これまで報告されている通り、生体サンプルを用いた定量には厳密なサンプリングが必要で、これにより精度の高い解析結果が得られると考えた。まず、我々は、ヒトの大腸癌組織と正常粘膜組織を適切な温度管理のもと速やかに回収・保存し、脂質抽出に関しては適切なpH管理下に行うことにより、精度の高い条件のもとLC―MS /MSによるLPLsの解析を行った。同一の手術検体の複数箇所からサンプルを採取し、再現性のある定量結果となることも確認した。この検体採取法と質量分析解析法を合わせることで、初年度の目標としていた大腸癌組織で変化するリゾリン脂質を同定することができており、概ね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
大腸癌組織で増加を認めた、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)、リゾホスファチジルグリセロール(LPG)、リゾホスファチジルセリン(LPS)の産生酵素や受容体の発現の解析を並行して行う予定である。具体的には、脂肪酸分子種の解析により大腸癌で増加していることが明らかんとなった、1-acyl LPI(18:0)や1-acyl LPS(18:0)の産生にはホスホリパーゼA2が関与し、2-acyl LPG(18:1)の産生にはホスホリパーゼA1が関与していると考えている。 また、癌の進行度によるリゾリン脂質組成変化についてもLC-MS/MS技術を駆使して行っていく予定である。
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