研究課題
腫瘍微小環境における免疫細胞は癌の進展に深く関与するが、免疫細胞の中で多数を占める好中球系の細胞の腫瘍微小環境での役割は不明な部分が多い。好中球は体内で初期免疫をつかさどり、ヒトの生存に必須である。一方で担癌患者では癌組織で好中球系の細胞が癌の進展を促進するという矛盾が生じている。本研究では血液中と腫瘍微小環境中の好中球の機能的相違点に着目し、好中球の感染防御機能を保持しつつ、腫瘍微小環境での癌促進能を抑制するような新規の癌治療ターゲットを探索するべく解析を進めている。まずは、腫瘍の好中球浸潤の強い大腸癌マウスモデルを用いて、腫瘍間質に作用する抗腫瘍薬での治療効果を検証し、腫瘍微小環境での好中球の役割の見当をつける。その為に、まずは腫瘍間質反応の強い大腸癌マウスモデルの構築、治療モデルの最適化が必須である。次にこれらの大腸癌マウスモデルを用いて、腫瘍中の好中球と血中の好中球を単離し、これらの形態の違いの解明を試みる。その際に腫瘍の消化、フローサイトメーターなど多数の因子の最適化が必要となる。また、費用対効果を考えて、効率の良い比較系を採用する必要がある。これらの情報をもとに、ヒト大腸癌患者においても同様の実験を行い検証する。最後に、腫瘍細胞を単離し培養し、腫瘍微小環境を変化させうる因子の同定を試みる。そうすることで、同定された因子に関する実験的な検証が行うことができる。
2: おおむね順調に進展している
大腸癌モデルマウスであるcis-Apc/Smad4マウスを用いて、大腸炎をきたす薬剤DSSを飲ませ、マウス(DSS-cis-Apc/Smad4)の大腸を観察した。DSS-cis-Apc/Smad4マウスは大腸腫瘍形成が促進され、これらには浸潤癌が多く含まれることがわかった。11週齢のcis-Apc/Smad4マウスに1週間DSSを飲料水に混入し、13-15週までの3週間にわたって治療を行い、腫瘍の治療反応性を評価することとした。現在の進行再発大腸癌の標準的治療として位置づけられている分子標的薬剤に、抗VEGF-A中和抗体があり、これは腫瘍微小環境の血管新生を抑制することで抗腫瘍効果を発揮すると感がられている。我々はこの薬剤に注目し、マウス抗VEGF-A抗体(clone B20)を使用することとした。DSSで大腸腫瘍誘発を行っていない、通常のcis-Apc/Smad4マウスは小腸に多発小腸癌を形成するが、これらはB20の使用で腫瘍増殖が有意に抑制された。一方、DSS-cis-Apc/Smad4マウスをB20で治療すると、DSSに非依存性の小腸癌はやはりその腫瘍増殖が有意に抑制されるものの、DSSで誘発された大腸癌はB20による抗腫瘍効果を認めなかった。つまり、DSSによる大腸炎で誘発された大腸癌は血管新生阻害剤に耐性を持つと考えられた。次に具体的な血管新生阻害剤耐性が何によってもたらされるかを検証するために、cis-Apc/Smad4マウスとDSS-cis-Apc/Smad4マウスそれぞれをB20治療のあり、なし、の合計4群間で、血清中の炎症性サイトカインの発現をタンパクアレイで比較した。
タンパクアレイの結果同定された因子(ここでは因子X、因子Yとする)が、DSS誘発大腸癌の血管新生阻害剤耐性機序に実際にかかわっているかどうか検証が必要となる。これらに対する中和抗体をB20と併用しDSS誘発大腸癌の腫瘍量を定量化することで、これらの因子が実際に耐性機序にかかわっているかどうかを検証する。これら因子がかかわっていることが分かれば、その分子学的機序を同定する。そのためには腫瘍をSpheroidとして単離してこれらの因子の刺激の有無で発現の変化する因子を網羅的に解析する。網羅的解析で同定された因子に関しても中和抗体や阻害剤があれば、これらをDSS誘発大腸癌にB20と併用してマウスを治療することで、同定された因子が実際に血管新生阻害剤耐性機序に関与することが想定される。
有効な利用のため小額の繰越金が生じた。次年度の物品費に充当の予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
Cell Death Dis
巻: 10 ページ: 264
10.1038/s41419-019-1508-2.
Cancers
巻: 11 ページ: E635
10.3390/cancers11050635.
Int J Mol Sci
巻: 20 ページ: E5822
10.3390/ijms20235822
Cancers (Basel)
巻: 11 ページ: E1891
10.3390/cancers11121891