各種小細胞肺癌細胞株に対する放射線照射後、放射線感受性が細胞株毎に異なること、DNA-PKcsやKu70の発現、核内EGFR蛋白の発現が細胞株毎に異なることを明らかにした。 次に、小細胞肺癌に対してDNA損傷修復が治療ターゲットになり得るかどうかDNA-PK阻害薬(NU7441)で検討した。各種肺癌細胞に対するNU7441のIC50を検討した結果、N417・H69・Lu139・Lu134A等の小細胞癌細胞株は比較的低い濃度で細胞増殖が抑制された。扁平上皮癌細胞Sq19や腺癌細胞HCC827、大細胞癌細胞Lu65は低いNU7441濃度で細胞増殖が抑制されたが、非小細胞肺癌細胞H1299は高濃度のNU7441が必要で、A549・PC9等の腺癌細胞は高濃度のNU7441を作用させても細胞増殖抑制効果が生じなかった。NU7441による細胞増殖抑制は小細胞癌細胞株で強く見られる傾向にあった。また、NU7441単剤におけるアポトーシス誘導について検討した。小細胞肺癌細胞株N417・H69とSq19ではNU7441投与後明らかにアポトーシス細胞の増加が見られた。H1299はコントロールと比較して統計学的有意差はあったがアポトーシス細胞は5%以下とわずかだった。A549はNU7441投与後有意なアポトーシス細胞の増加は認めなかった。以上よりNU7441単独によるアポトーシス誘導は、細胞によって大きく異なることが示唆された。PARP阻害薬と放射線治療の併用についても検討したが、細胞株によっては併用による治療効果の増強を認めたが、全ての細胞株で効果を認めるものではなかった。 以上の結果からDNA損傷修復機構のプロファイルから小細胞肺癌の個別化治療開発が期待できる。マウスや臨床検体でのさらなる検討を行う予定であったが、COVID-19流行への対応のため当初の計画通りに研究を進めることができなかった。
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