研究課題
浸潤は悪性がんに顕著な特徴であり、その分子病態の解明が革新的がん治療法の開発に不可欠である。しかし、がん悪性化に伴って浸潤能が亢進するメカニズムには未解明な点が多い。私たちは、がん浸潤を司る膜突起構造 (浸潤突起) の形成を制御する新規因子として、ダイナミン (Dynamin2) を同定した (Zhang et al., BBRC 2016)。ダイナミンは、がん原遺伝子Srcのリン酸化基質で、アクチン細胞骨格制御や細胞内膜輸送において重要な機能を持つ。浸潤突起におけるダイナミンの機能には、PRドメインが必要であったため、ダイナミンはSH3ドメインを有する他の蛋白質と相互作用しながら、浸潤突起の形成や機能を制御すると考えられた。そこで本研究では、ダイナミンと同様に細胞内膜輸送やアクチン制御に関与し、その多くがSH3ドメインを保有するBARドメイン蛋白質に焦点を絞り、浸潤突起への局在およびダイナミンとの結合性について解析した。まず共免疫沈降法を用いてダイナミンと相互作用するBARドメイン蛋白質を探索したところ、計7種のBARドメイン蛋白質がダイナミンと相互作用することが明らかになった。次に、膀胱移行上皮がん由来細胞株T24の浸潤突起におけるBARドメイン蛋白質の局在を解析したところ、計6種のBARドメイン蛋白質が、浸潤突起に局在することが明らかになった。以上の結果に基づき、ダイナミンに結合しかつ浸潤突起にも局在する2種のBARドメイン蛋白質について、過剰発現によるT24細胞の浸潤に及ぼす影響を、マトリゲル浸潤アッセイにより解析した。その結果、これらのBARドメイン蛋白質の過剰発現により、T24細胞の浸潤活性が顕著に上昇することが明らかになった。
3: やや遅れている
当初平成32年度に行う予定をしていた浸潤能亢進に関わるダイナミン結合蛋白質の探索を平成30年度に前倒しして行い、がん浸潤に関わる可能性が高いBARドメイン蛋白質を複数同定した。その一方で、平成30年度に予定していた浸潤突起におけるアクチン制御におけるダイナミンの機能解明については着手していないため、今年度に行う予定である。
浸潤突起に局在するBARドメイン蛋白質について、膀胱がん細胞T24を用いた機能阻害実験(RNAi, ノックアウト等)を行い、浸潤突起形成や浸潤活性に及ぼす影響を解析する。さらに、肺がん細胞、乳がん細胞など、各種がん由来の細胞株においても同様の機能解析を行い、ターゲットとなるBARドメイン蛋白質の浸潤における機能の普遍性について検証する。また前年度に計画していた浸潤突起のアクチン制御におけるダイナミンの機能解析を行う。
旅費、人件費・謝金の実支出額は予定より多かったが、物品費やその他の実支出額が予定より少なかったため、次年度使用額が生じた。今年度は論文を投稿予定であるため、翌年度分として請求した助成金と合わせて、主にその他の支出に用いる予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
Int J Oncol.
巻: 54(2) ページ: 550-558
10.3892/ijo.2018.4663
http://www.okayama-u.ac.jp/user/biochem/index.html