研究実績の概要 |
TNBCは異質性の高い疾患で, 明確な化学療法選択基準がないことや近年開発された分子標的薬はその効果が限定的であることから, TNBCのさらなる特性に基づいた新規治療薬の開発が急務である. 我々は, これまでにNGSを用いた包括的ゲノム解析を通じて, TNBCにてエピジェネティック関連遺伝子群に変異の蓄積および高頻度の発現低下を認めることを突き止めてきた. 本研究では, これら遺伝子群のうち, 最も高頻度に不活化 (発現低下・変異) を認めたSALL3の分子機構を解析することで, TNBCの異質性を解明し, 治療法確立や創薬へ繋げることを目的としている. これまでの報告から, SALL3はDNAメチル基転位酵素であるDNMT3Aと結合することで, その活性を抑制することが知られているため, 全エキソーム解析で認めたSALL3変異体の機能を解析したところ, ナンセンス変異体ではDNMT3Aとの結合がほぼ完全に消失していたのに対し, ミスセンス変異体は結合を認め, DNMT3Aの抑制活性も野生型と同程度保持していた. 一方, SALL3野生型がEZH2とも結合していることを初めて見出したが, ミスセンス変異体も同様であった. また, TNBCにおける細胞増殖・浸潤能に対するSALL3の機能を解析するため, TNBC細胞株に野生型・変異体を過剰発現させ, 足場非依存的な細胞増殖に対するSALL3の機能を検討したところ, 野生型ではコントロールと比較し, 増殖能の有意な低下が認められたのに対し, ナンセンス変異体ではその抑制活性が完全に消失していた. 一方, ミスセンス変異体は増抑制能を有していたものの, 野生型と比較するとわずかではあるが, 有意な減弱が認められた. 以上のことは, SALL3が癌抑制遺伝子としての機能を有していることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
30年度に予定していた, 全エキソーム解析で同定したSALL3変異体について, メチル基転移酵素であるDNMT3Aとの結合やその活性制御, さらには, 足場非依存的な細胞増殖活性に対する機能解析より, ナンセンス変異の癌抑制機能の低下を見出している. さらにはポリコーム抑制複合体タンパク質であるEZH2との結合も初めて同定し, TNBCにおけるSALL3の新しい機能を見出している点は今後の解析に有用であるため, おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から, SALL3の高頻度な発現低下を認めていることから, その発現制御機構を解明するため, TNBC症例を中心にSALL3のプロモーター領域のCpG islandのメチル化をパイロシークエンス法により解析し, 発現量との相関を検証する. さらに, TNBC細胞株におけるSALL3の発現やメチル化比率を解析し, 脱メチル化剤を用いることで, 発現制御機構のメチル化依存性を検討していく. 一方, これまでの解析から, SALL3がDNAおよびヒストンメチル化に関与する因子との結合を同定しているため, SALL3を介したゲノムワイドなメチル化を解析することで, 標的遺伝子の同定を試みていく予定である. ここではSALL3を発現しているTNBC細胞株を用いて, ノックダウンによるゲノムワイドなメチル化変化を次世代シークエンス (NGS) を用いて解析し, 各遺伝子のメチル化率を測定することで標的遺伝子の同定を試みる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
EZH2へのメチル化活性への影響を確認できなかったため, H3K27me3やH3K9me3抗体によるChIpアッセイを実施していないこと, さらに, 細胞増殖や浸潤・転移能の解析は過剰発現系で結果を得ることができたため, CRISPR/Cas9システムを用いなかったため, 次年度使用額が生じた. 今年度は, SALL3によるゲノムワイドなメチル化解析やSALL3の発現低下制御機構の解明のために使用する分子生物学試薬や消耗品などの購入に充てていく.
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