研究課題
本研究は、GRWD1 (Glutamate-rich WD40 repeat containing 1) が腫瘍抑制因子p53の転写活性化能を制御することによってがん促進的に作用する可能性を明らかにすることを目的としている。昨年度までに、GRWD1はp53と直接結合すること、GRWD1がp53標的遺伝子のプロモーター上に結合すること、およびGRWD1がp53の転写活性化能を抑制することを示していた。今年度は、GRWD1を発現抑制した細胞を用いてFAIRE (Formaldehyde-assisted isolation of regulatory elements)-qPCRを行い、p53標的遺伝子のプロモーター領域のオープネスが影響を受けるか調査した。その結果、ブレオマイシン処理によって増加したp21プロモーター領域のFAIREシグナルは、GRWD1の発現抑制によってさらに増加した。このことから、GRWD1はp53標的遺伝子のプロモーター領域のクロマチンオープネスを負に制御することが示唆された。また、がんゲノムアトラス (TCGA) データベースから479例のメラノーマ患者のデータを参照し、クラスター分けしたところ、p53に変異がある群ではGRWD1の発現量の多寡は予後と相関しないが、p53野生型の群では、GRWD1高発現により予後不良となることが示された。また、p53野生型の患者群では、GRWD1の発現量といくつかのp53標的遺伝子 (MDM2, GADD45A, NOXA) の発現量には逆相関が認められた。さらに、GRWD1高発現かつGADD45A/NOXA低発現の患者群は、それ以外のサブタイプの患者群に比べ、最も予後不良であった。以上のことから、メラノーマにおいてGRWD1の発現量は予後予測のバイオマーカーとなり得ることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
GRWD1によるp53転写活性抑制については、学術雑誌 Journal of Biochemistryに発表したことから、目標を達成することができた。本研究は、上記とは別に、質量分析法によってGRWD1結合が同定されたRPS17のがん抑制的な機能の評価およびGRWD1結合の意義について明らかにすることも目的としている。解析の結果、RPS17がp53非依存的にがん抑制活性を示すことを見出した。RPS17によるがん抑制活性の実態を探るため、RPS17に結合する因子を質量分析法により同定した。結合候補因子とRPS17との意義については、現在調査中である。
RPS17結合因子のうち、がん抑制に関わることが報告されている因子との関わりを詳細に調査する。まずは物理的相互作用を調べ、結合に必要なドメインを決定する。その後、RPS17の発現抑制、あるいは過剰発現が、当該因子のレベルや細胞内局在に与える影響を調査する。さらに、当該因子との結合部位を欠失したRPS17はがん抑制活性が失われるのかを調べるため、in vitro多段階発がんモデルを利用し、軟寒天コロニー形成試験およびヌードマウスにおける腫瘍形成試験を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 3件)
Journal of Biochemistry
巻: 167 ページ: 15-24
10.1093/jb/mvz075.
Scientific Reports
巻: 9 ページ: -
10.1038/s41598-019-53259-2.