研究課題/領域番号 |
18K07202
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
有山 寛 九州大学, 大学病院, 助教 (80713437)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 印環細胞 / E-カドヘリン / CXCR4 / MMP3 |
研究実績の概要 |
胃切除検体から一部組織を採取し、オルガノイド培養に成功した。長期間培養することで一部の細胞では分化を認めたが、胃組織幹細胞のマーカーとして報告されているLGR5、MIST1を発現した細胞も維持されており、長期間胃組織幹細胞を培養することに成功している。 これらオルガノイドを構成する細胞において、CRISPR-Cas9 systemを用いてE-カドヘリンをノックアウトすることで印環細胞の出現を認めた。この印環細胞の運動性をBZ-X700顕微鏡システムを用いて評価したところ、印環細胞では優位に細胞の運動性が亢進しており、これが印環細胞の高い浸潤・転移能に関与すると考えられた。またオルガノイドを構成する細胞においては核内にCXCR4の発現を認めたが、印環細胞では細胞膜上にCXCR4が移動していた。CXCR4からのシグナルをAMD3100を用いてブロックすることで印環細胞にアポトーシスが誘導され、ヒト印環細胞においてもCXCR4-CXCL12 axisは治療ターゲットになりうると考えられた。 また通常のオルガノイドおよびE-カドヘリンをノックアウトした後のオルガノイドを用いて遺伝子発現の差を確認したところ、血管新生関連の遺伝子並びに細胞外マトリックス分解酵素MMP特にMMP3の発現が亢進しており、細胞の運動性亢進の一因と考えられた。 またオルガノイド構成細胞においてE-カドヘリンとTP53のダブルノックアウトを行ったところ、同様に印環細胞の出現を認めた。ダブルノックアウトを行った細胞を免疫不全マウス皮下に移植したが、腫瘍形成は認められなかった。これらのダブルノックアウト細胞の遺伝子発現を解析したところ、細胞増殖・アポトーシス関連遺伝子の発現に変化は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長期間の胃オルガノイドの培養に成功しており、そのうち幹細胞のマーカーであるLGR5およびMIST1を発現した細胞はいずれも40日以上培養可能であった。これらの幹細胞マーカーは相互排他的に存在し、そのいずれが真の幹細胞か同定するためPKH26による生細胞染色キットを用いて細胞をラベルする方法を試したが、細胞毒性が強く評価困難であった。 E-カドヘリンのノックアウトによる印環細胞の出現も既に確認していたが、この印環細胞はMIST1陽性であり、MIST1陽性胃幹細胞から発生すると考えられた。さらに印環細胞癌の特徴につき確認ができた。E-カドヘリンをノックアウトし出現した印環細胞は高い運動性を持ち、また遺伝子発現を比較するとMMP3の発現が亢進していることから、このことが印環細胞癌の臨床的特徴である高い浸潤能・転移能に関与していると考えられた。 マウス印環細胞癌モデルにおいてはCXCR4-CXCL12 axisが印環細胞の維持に重要であった。今回のヒト胃印環細胞においてもE-カドヘリンのノックアウトによって核内に存在していたCXCR4が細胞膜上に移動し、なおかつAMD3100によりCXCR4からのシグナルをブロックすることで印環細胞がアポトーシスを起こすことが確認され、特に早期の胃印環細胞癌においてはCXCR4は重要なターゲットになりうることが確認できた。またCXCR4のリガンドであるCXCL12については臨床検体の免疫染色の結果、αSMA陽性の筋線維芽細胞に発現しており、この筋線維芽細胞は印環細胞癌部に多数認められた。以上のことから筋線維芽細胞は印環細胞にニッチとして機能していると考えられた。 更なる悪性獲得形質の機序としてTP53とE-カドヘリンのダブルノックアウトを行った。同様に印環細胞の出現を認めたが、免疫不全マウス(NOGマウス)における造腫瘍性は確認できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
真の胃組織幹細胞の同定のため、現在CRISPR-Cas9システムによりLGR5、MIST1をノックアウトし、オルガノイド形成能を評価することを試みている。またこれらのオルガノイドを用いてE-カドヘリンをノックアウトし、印環細胞の起源となる細胞の同定を試みる。 幹細胞からの分化誘導に関してはWNT3aの除去、JAGGED1の添加など試みているが、壁細胞への分化誘導が困難な状況である。今後は胃酸分泌に関わる神経伝達物質であるアセチルコリンあるいは神経成長因子(NGF)を添加し、壁細胞への分化を試みる。 印環細胞癌の臨床的特徴である高い浸潤能については確認ができたが、印環細胞の形態変化(粘液貯留)に関わる遺伝子の変化については確認できなかった。オルガノイドには正常細胞も多数含まれていることから、より正確な遺伝子の変化を検出するため、single cell解析あるいはブロック標本を作製しレーザーマイクロダイセクションにて印環細胞部のみを抽出し解析を行う。 TP53のダブルノックアウトでは更なる悪性形質の獲得には至らなかった。今後はc-MYCの遺伝子導入を行い免疫不全マウスにおける造腫瘍性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初本年度中のシングルセル解析もしくはマイクロダイセクションによる印環細胞部のみの切り出しによる遺伝子発現解析を行う予定であったが、プラスティック器具、培養試薬による支出が大きく、当該研究費での上記施行が困難となった。そのため次年度使用額(当該助成金)を翌年度分と合わせて、上記研究施行する方針とした。
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