研究課題/領域番号 |
18K07204
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中林 潤 横浜市立大学, 先端医科学研究センター, 准教授 (80322733)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 転写制御ネットワーク / 細胞種特異的転写因子 / 細胞分化 / 運命決定 |
研究実績の概要 |
本研究の最終的な目的は、がん微小環境中のTumor Associated Macrophage (TAM)の分化を制御している転写因子間の制御ネットワークを同定することである。それに先立ち、正常の血球系細胞の分化を制御する転写因子ネットワークを同定することができた。 まず、正常の血球系細胞分化系譜の中で、血液幹細胞(Hematopoietic Stem Cell, HSC)、多分化前駆細胞(Multi-potent Progenitor Cell, MPP)、リンパ球系前駆細胞(Common Lymphoid Progenitor, CLP)、骨髄球系前駆細胞(Common Myeloid Progenitor)で特異的に発現している転写因子を、細胞種特異的転写因子として同定した。次に、これらの転写因子の結合モチーフがプロモータ領域に存在している転写因子を抽出した。これらの転写因子は細胞種特異的転写因子に制御されていると考えられる。このような転写因子間の仔魚する・されるという関係に基づき、転写因子間の制御ネットワークを構築した。 構築した転写制御ネットワークのネットワーク構造の特徴を解析した結果、最も未分化なHSCの転写制御ネットワークは、他の前駆細胞の制御ネットワークとは異なるネットワーク構造を持つことを明らかとすることができた。すなわち、転写因子同士がお互いを制御し合う、双方向的な制御関係がネットワーク中に多く見られるのに対し、前駆細胞の制御ネットワークでは、ごく一部の転写因子にその他の多数の転写因子が一方向性に制御される制御関係が多く見られた。転写因子間の双方向性制御は、未分化な細胞における転写制御ネットワークの特徴であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞分化のプロセスにおいて、細胞の運命が決定することはすなわち、細胞に特異的な遺伝子発現パターンが決定することと言える。細胞種特異的な遺伝子の発現を制御しているのが細胞種特異的な転写因子である。細胞種特異的転写因子を同定し、これらの転写因子間の制御する・されるという関係に基づいて構築した転写制御ネットワークは、細胞の運命決定のメカニズムの中心となる制御システムと考えられる。 今回は正常の血球系細胞の分化プロセスにおける細胞系譜を研究の対象として扱ったが、同じ手法がTAMの分化プロセスにも応用できる。今回の成果は、最終目標であるTAMの分化を制御する制御メカニズムを解明するための大きな前進と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今回、正常の血球細胞分化系譜における転写制御ネットワーク構築の手法をTAMの分化に応用し、TAM分化を制御する転写制御ネットワークを構築していく予定である。TAMの遺伝子発現プロファイルは複数のものが公共のデータベース上に公開されているので、まず、これらのデータからTAM特異的に発現している転写因子を抽出する。次にこれらの転写因子のプロm-多領域を調べ、転写因子の結合モチーフを同定する。プロモータ領域に転写因子の結合モチーフを持つ転写因子は、その転写因子から制御を受けていると考えられる。このような転写因子間の制御する・されるという関係に基づいて、転写因子の制御ネットワークを構築する。構築したネットワークを解析し、TAM分化を制御する転写制御ネットワークの特徴的なネットワーク構造を明らかにしていきたい。また、ネットワークの中心的な位置を占め、制御のカギとなる転写因子を同定したい。
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