研究実績の概要 |
最近、我々は、マスト細胞腫や消化管間質細胞腫 (gastrointestinal stromal tumor: GIST) の発症の大きな原因の一つであるKitチロシンキナーゼの恒常的活性化変異体が、これまで考えられてきた細胞膜ではなく、エンド/リソソーム, 小胞体 (endoplasmic reticulum: ER), ゴルジ体に集積し、そこをシグナルのプラットホームとすることを報告した。これらの研究成果は、「他のがんにおけるKitもオルガネラに集積するのか」, 「オルガネラに集積する分子メカニズムはどのようなものか」, 「異常局在をターゲットとした新たな機序の治療戦術の構築は可能か」といった新たな疑問と課題を生じさせた。 本年度は、急性骨髄性白血病 (acute myeloid leukemia: AML) およびメラノーマでのKit変異体の局在とシグナルについて、免疫染色と共焦点レーザースキャン顕微鏡でイメージングを試みた。AML細胞株であるKasumi-1, SKNO-1のKit変異体の局在を調べたところ、明らかに異常に細胞内小器官に集積していた。さらに、オルガネラマーカーと共染色したところ、変異型Kitは、ERやゴルジ体といった分泌オルガネラではなく、エンドソームおよびリソソームマーカーと共局在していた。また、Kitは、自身のキナーゼ活性に依存したエンドサイトーシスによって、エンドソーム・リソソームに集積していることを見出した。AMLだけでなく、他の白血病株における変異Kitでも同様の結果が得られた。今後、白血病のエンドソーム・リソソームで、Kit変異体が増殖シグナルを発信するか、明らかにしたい。また、メラノーマ細胞株においては、核近傍に特徴的なKitの集積が認められ、そこでの活性化が予想されるので、その詳細な局在について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マスト細胞腫やGISTと同様に、AMLおよびメラノーマのKit変異体 (Kit-N822KまたはKit-N818K) は、細胞膜以外の小胞状の細胞内小器官に分布していることを明らかにすることができた。また、がん種が異なると、同じKit変異体であっても、局在が異なることが示唆された。複数の細胞株と複数の抗体によって、本実験結果は支持されている。AMLについては、変異型Kitが局在するオルガネラは、初期分泌経路で役割を果たすオルガネラ (小胞体, ゴルジ体) ではなく、エンドサイトーシス後に至るエンドソーム・リソソームであることを、ピアソン相関係数を有意差検定し、定量的に示すことができた。当該年度については、AML, メラノーマでのKit変異体の異常局在を明確にすることが目標だったので、本研究を概ね順調に進展させることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
AML・メラノーマのKit変異体が、オルガネラから増殖シグナルを発信しているかどうか、(1) 抗活性化Kit抗体および抗チロシンリン酸化抗体を用いた細胞内イメージング, (2) 下流分子であるAkt, Erk, STAT5およびそのリン酸化体の局在解析, (3) 細胞内輸送阻害剤 (ブレフェルジンA, モネンシン, バフィロマイシン, クロルプロマジン等) のKitシグナルへの影響の検討, (4) 遺伝子発現系 (蛍光蛋白質, HA/Myc/Flagタグ融合蛋白質の発現系) を用いた確認等をおこなうことで明確にする。 さらに、マスト細胞腫, GIST, AML, メラノーマの変異型Kitの異常局在の分子メカニズムを明らかにするために、それぞれの細胞株 (HMC-1, GIST-T1, Kasumi-1, WM8) からKitを免疫沈降し、共沈降蛋白質を質量解析・比較する。がん種間におけるKitの局在の違いと、相互作用蛋白質の違いの相関を見出すことができたら、それらのノックダウン, インヒビターによる阻害, 恒常的活性化変異体・ドミナントネガティブ体の発現の、Kitの局在への影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、細胞株 (AML, Kasumi-1, SKNO-1; メラノーマ, WM8, WM39), 抗体 (抗Kit抗体等), 阻害剤 (チロシンキナーゼインヒビター, PKC412, イマチニブ) の検討がスムーズに進み、時間的にも物質的にも、予定していた1/2~2/3程度で、実験結果を得ることができ、次年度使用額が生じた。一方で、2019年度には、AML・メラノーマだけでなく、マスト細胞腫, GISTを含めた4種類のがん種を扱い、生化学実験, 細胞内イメージングをおこなうことを予定しており、それぞれのがん種に対し、複数の細胞株を準備して前年度よりも多くの実験をおこなう予定である。それらの実験をおこなうことを、2018年に生じた次年度使用額の使用計画としたい。
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