研究課題
Acute myelogenous leukemia (AML) におけるKITチロシンキナーゼの恒常的活性化変異体の細胞内分布と増殖シグナル (AKT, ERK, STAT5活性化) の関係について、新たな知見を得た。前年度までに、AML細胞のKIT変異体が、これまでに考えられてきた細胞膜ではなく、小胞状オルガネラ (エンドソーム・リソソーム) に集積していることを明らかにした。本年度は、KITが「細胞内のいつ・どこで下流分子を活性化して細胞を無限増殖に導くのか」についての解析を試みた。抗リン酸化KIT抗体で免疫蛍光染色し、共焦点レーザースキャン顕微鏡で分布解析したところ、AMLのKIT変異体は主にゴルジ体で活性化しており、エンドソーム・リソソームではほとんど活性化していなかった。KITのゴルジ体への移行をブレフェルジンA等でブロックすると、KIT活性は抑制され、下流AKT, STAT5, ERKの活性化が起きなくなった。一方、モネンシンでゴルジ体からの排出を抑制しても、また、bafilomycin A1でエンドソーム-リソソーム間の輸送を抑制しても、KITシグナルは維持された。すなわち、AMLのKIT変異体は、ゴルジ体からシグナルを発信し、AML細胞を無限増殖させることが明らかになった。また、この増殖シグナルには、ゴルジ体の脂質ラフトが重要な役割を果たしていた。さらに、小胞体のKIT変異体は、蛋白質チロシン脱リン酸化酵素 (protein tyrosine phosphatases: PTPs) によって不活性化されることを示唆するデータを得た。今後は、メラノーマでの解析を進め、並行して、KIT変異体のオルガネラ停留の分子メカニズムの解明を試みる。
2: おおむね順調に進展している
前年度までに、AML細胞株 (Kasumi-1等) でのKIT変異体 (KIT-N822K) は、エンドソーム・リソソームに分布することを明確にし、本年度は輸送阻害剤処理 (brefeldin A, monensin, bafilomycin A1等), 生化学的解析および抗リン酸化KIT抗体による蛍光イメージングによって、KITシグナルが起きる場がゴルジ体であることを明らかにすることができた。さらに、ゴルジ体のKIT活性化において、脂質ラフトが重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、ゴルジ体以外のオルガネラ (少なくとも小胞体) では、KIT変異体に対する抑制メカニズム (蛋白質チロシン脱リン酸化酵素) が働いており、ゴルジ体ではその負の制御が破綻していることが示唆された。輸送調節によるシグナル抑制, 治療薬開発についても、in vitroの結果が蓄積されたている。得られた研究成果は、2019年9月にCell Commun. Signal.誌 (Vol. 17, 114-) に掲載された。
メラノーマのKIT変異体についての解析を進める。現段階で、メラノーマ細胞株のKIT変異体も特徴的なオルガネラ局在を示すことがわかっているので、野生型KITを発現する細胞株と比較しながら、その詳細を調べる。さらに、変異型KITがオルガネラで活性化し、下流分子をリン酸化しているかどうかについて、生化学的解析と蛍光イメージングによって検討する。また、どのがん細胞のKIT変異体がオルガネラ停留してシグナル伝達するならば、停留の原因となる分子メカニズムの解明について取り組む。
KIT変異体のオルガネラ停留の分子機構について、試薬選定が遅れ、納品時期が延びてしまった。それら物品については、既に手配してあるので、速やかに実験をおこなう予定である。
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