研究課題/領域番号 |
18K07209
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
上田 洋司 藤田医科大学, 総合医科学研究所, 講師 (40416649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エクソソーム / UBL3 / MVB |
研究実績の概要 |
エクソソームは、ほぼ全ての細胞種からMultivesicular Body(MVB)を介して細胞外へ放出される小胞であり、産生細胞に由来する特定のタンパク質やmiRNAを内包し標的細胞に再び取り込まれることで新たな細胞間コミュニケーションとして働き、癌転移などの疾患を含めた様々な生命現象に関与している。しかし、特定タンパク質のエクソソームへの輸送機構は不明であった。申請者は、バイオインフォマティクスの手法により、種間で高度に保存されたユビキチン様タンパク質であるUbiquitin like protein 3(UBL3)を同定し、これまでに例のないジスルフィド結合を介した新規翻訳後修飾(UBL3化と命名予)を担う事を発見した。さらに機能的解析により、UBL3がMVBに局在化し、エクソソームとして細胞外へ放出されることを見出した。UBL3に対する結合分子同定のために網羅的プロテオミクス解析を行った結果、1241個のタンパク質が見つかり、その中に発がん遺伝子として知られるRasを含む疾患関連タンパク質が20個以上含まれていた。発がん性RasG12V変異体もUBL3による翻訳後修飾によってエクソソームへの輸送量が増大することを見出した。以上の結果は、UBL3化修飾がエクソソームへのタンパク質輸送を制御することを示している(Ageta et al., Nat Commun 2018, Cell Mol Life Sci 2019)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、新規翻訳後修飾分子を同定することを目的とし研究を進め、種間で高度に保存されたユビキチン様タンパク質Ubiquitin-like protein 3 (UBL3, 別名: Membrane-anchored Ub-fold protein, MUB)が新規翻訳後修飾分子であること、UBL3による新規翻訳後修飾が特定タンパク質のエクソソームへの輸送を制御することを見出した(Ageta et al., Nat Commun 2018 Cell Mol Life Sci 2019)。具体的には以下6点を発見した。1) UBL3は新規翻訳後修飾因子として通常とは異なるシステイン(Cys)残基を介した新規翻訳後修飾因子として機能する。2) UBL3のMVBを介したエクソソームへの輸送には、UBL3の翻訳後修飾活性が必要である。3) Ubl3欠損マウスから精製したエクソソーム内のタンパク質の総量が、野生型と比較して約60%消失していたが、含有する総RNAや、エクソソーム濃度、エクソソームの直径には変化は無かった。4) UBL3結合分子を網羅的プロテオミクスで解析した結果、1241個のタンパク質を同定した。その中に発がん遺伝子として知られるRasを含む疾患関連タンパク質が20個以上含まれていた。5) 発がん性RasG12V変異体もUBL3による翻訳後修飾によってエクソソームへの輸送量が増大し、このエクソソームを培養細胞へ投与すると、取り込まれた細胞において細胞内シグナルが増大した。6) UBL3を結合させた緑色蛍光タンパク質やビオチンタンパク質は、細胞培養液中のエクソソームとして放出されていることがわかった。 以上の結果は、特定タンパク質が選択的にエクソソームへの輸送されるためにはUBL3による新規翻訳後修飾が必要であることを示すはじめての報告となった。
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今後の研究の推進方策 |
がん転移において悪性タンパク質がエクソソームを介して伝搬し(Al-Nedawi et al., Nat Cell Biol 2008; Peinado et al., Nat Med 2012)、アミロイドβ、タウ、α-シヌクレイン、プリオンなどの神経変性関連タンパク質もエクソソームを介して伝搬することが知られている(Rajendran et al., PNAS 2006; Kanmert et al J Neusci 2015; Fevier et al., PNAS 2004; Lee et al., Nat. Rev. Neurol 2014)。しかし、特定タンパク質のエクソソームへの輸送機構は不明であり、エクソソームの持つ本来の生理機能についても報告が無い。申請者の研究により、エクソソームに輸送されるタンパク質の60%はUBL3修飾によって制御されていることが明らかとなった。今後は、UBL3化の分子機構を解析することにより、UBL3化を基軸とした新たな抗がん剤の提案を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、精査に不可欠な資材が入手困難となったため、実験スケジュールが変更となったため。
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