研究課題
悪性中皮腫 (Malignant Mesothelioma: MM) はアスベスト曝露が主要因で、極めて予後不良の腫瘍である。長期間に及ぶ酸化ストレスにより、中皮細胞の変異蓄積が腫瘍化に寄与することが予想されるが、その実態は未解明の部分が多い。現在、腫瘍化にBAP1を含む数遺伝子の関与が知られるが、すべてがん抑制遺伝子であり、治療標的分子とはなりにくい。そこで、アスベスト曝露による腫瘍の発生・進展過程で生じる変異の全体像を捉え、治療標的分子の探索、予後予測のための基礎的検討を行うことが目的である。MMの全ゲノム解析の結果、17p11.2や19p13.1にゲノム増幅している検体が見つかった。そこで当該領域内遺伝子を含めdigitalMLPA(MLPA:Multiplex Ligation-dependent Probe Amplificationと次世代シーケンサー解析を組合せた網羅的ゲノムコピー数解析法)解析の結果、NCOR1遺伝子やTP53遺伝子に高頻度でコピー数変化が確認された。さらに高頻度にゲノムコピー数変動が見られる遺伝子中には、BAP1遺伝子の細胞内局在を調節する遺伝子X、脱ユビキチン化ターゲット遺伝子Y, Zが含まれることを新規に見出した。BAP1に変異が見られない検体でもX, Y, Zのいずれかに変異が存在する検体がある。よって、BAP1 signal pathwayが深くMM発症・進展に寄与している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
我々はMMでは3p21領域遺伝子に激しいゲノム再構成が生じることを報告している (Yoshikawaら, PNAS. 113(47), 2016) 。今回、3p21以外に17pや19pもゲノム再構成が生じやすいことを見出した。特にTP53(17p) は、以前MMでは変異頻度が低いと言われていたが、高頻度のエクソン/遺伝子単位欠損が見られており、3p21領域に限定されたものではなく、別領域でも激しいゲノム再構成が生じているということが裏付けられた。
BAP1 signal pathwayの制御不能がMMの発症に深くかかわる可能性があり、本研究は、腫瘍化に直接寄与するドライバー遺伝子の発見につながる可能性がある。ターゲットとするY, Zとも転写調節に関わる遺伝子である。まずは、MM細胞株を用いノックダウンやノックアウト->それぞれの遺伝子産物発現調節の相互作用->これら分子のターゲット遺伝子の探索->腫瘍化に直接寄与するドライバー遺伝子を探索する。ドライバー遺伝子候補が見つかれば、対応する分子標的薬の探索を行い、細胞増殖阻害、アポトーシス誘導が生じる物質を探す。
試薬の値引きによりわずかだが残額が生じた。次年度に有効活用する予定である。
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J Clin Oncol
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10.1200/JCO.2018.79.0352