研究実績の概要 |
悪性中皮腫 (Malignant Mesothelioma: MM) はアスベスト曝露が主要因で、極めて予後不良の腫瘍である。アスベスト曝露による腫瘍の発生・進展過程で生じる変異の全体像を捉え、治療標的分子の探索、予後予測のための基礎的検討を行うことが目的である。 新規開発手法であるdigitalMLPA(MLPA:Multiplex Ligationdependent Probe Amplificationと次世代シーケンサー解析を組合せた網羅的手法)によるゲノムコピー数解析、次世代シーケンサーによる塩基配列解析、RNA-seqによる融合遺伝子解析を組合せたゲノム統合解析を実施した。予後の良い患者腫瘍の特徴は、コピー数変化が生じている染色体数が少なく、約半数の患者に検出される3p21の欠失がBAP1周辺に限局している。またMMの特徴である染色体内特定領域に生じるchromothripsis様の激しいゲノムコピー数変動が少なく、digitalMLPA によるコピー数解析で患者の予後予測ができる可能性が示された。また11q13, 17p11や19p13にゲノム増幅している検体が高頻度で見つかり、本領域からは融合遺伝子が検出されたが、その融合対象遺伝子や融合箇所の共通性は見つからなかった。そのため治療標的候補遺伝子の絞り込みには至っていない。 がん関連遺伝子に生殖細胞系列変異を有する患者の予後が良いことを見つけており(JCO, Pastorino S, Yoshikawa Yら,2018)、BAP1, TP53遺伝子など生殖細胞系列変異を有する患者の腫瘍はゲノムコピー数変化が小さい傾向が見られた。よって、がん易罹患性遺伝子の生殖細胞系列変異の検出と腫瘍のゲノムコピー数解析を組み合わせることで予後予測ができる可能性が示されたことが本課題の成果である。
|