研究実績の概要 |
本研究では、癌の悪性化(浸潤・転移)の原因となる脱分化現象(上皮間葉移行)に対し、エネルギー代謝酵素であるイソクエン酸脱水素酵素(IDH)を標的とした脱分化抑制法を開発するための基盤研究を行っている。 研究代表者はこれまでに、未分化型肝癌細胞では分化型に比べIDHの発現量が低下していることを見出している。脱分化現象のひとつであるTGF-β誘導性上皮間葉移行におけるIDHの発現変化について調べた結果、上皮系から間葉系への形質転換とともにIDH1, 2, 3各サブタイプの発現減少が認められた。またIDH1, 2, 3各サブタイプの強制発現ベクターを構築し、事前にIDHを強制発現させた細胞にEMTを誘導する実験を行った結果、IDH3の強制発現で有意なEMT抑制効果が認められた。研究成果は第25回肝細胞研究会(2018年7月 東京)、第77回日本癌学会学術総会(2018年9月 大阪)で発表した。 脱分化時にIDHが発現抑制されるメカニズムについて研究を進めた。未分化型肝癌細胞および、TGF-βにより上皮間葉移行を起こした肝癌細胞においてヘッジホッグ(HH)シグナル経路の活性化を認めた。HHシグナル経路は細胞増殖、細胞運動性、細胞死抵抗性などの癌悪性形質を促進することが知られる。HHシグナル阻害剤(GANT-61)は間葉系マーカー減少、上皮系マーカー上昇、IDH上昇、細胞増殖抑制、細胞運動性を低下させた。また分化誘導剤として知られるHDAC阻害剤(トリコスタチンA)が未分化細胞にIDHを強く発現誘導させることを見出した。これらの結果からIDHの発現制御に、HHシグナル経路とエピジェネティックな転写制御が関与していることが示唆された。研究成果は第77回日本癌学会学術総会(2018年9月 大阪)で発表し、第26回肝細胞研究会(2019年5月 横浜)で発表予定である。
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