本研究では、TCA回路の構成酵素の一つであるイソクエン酸脱水素酵素(IDH)の発現賦活化により、癌悪性化の抑制効果を検証することが目的である。2021年度はこれまでに樹立されたIDH1、IDH2、IDH3の安定導入強制発現細胞株を用い、マウス腫瘍形成実験を行った。その結果、残念ながら対照群において有意な腫瘍形成が認められず、この原因としては強制発現株樹立に用いたHLF細胞は腫瘍造成能が低いとの報告がある。昨年度までにIDH1強制発現株では低酸素シグナル応答抑制が認められたことから、移植されたグラフト内の血管新生を血管内皮マーカーであるCD31を用いて解析中である。一方で腫瘍造成能に対するよりはっきりとした影響を評価するため、高腫瘍造成株であるHuH1を用いてレンチウイルスベクターによるIDH1、IDH2、IDH3の安定導入強制発現細胞株を作製した。現在これらの強制発現株の低酸素シグナル応答や低酸素処理による細胞生存について解析を進めている。 さらに昨年度に引き続き、肝癌細胞の脱分化を引き起こすエピジェネティック因子としてヒストン脱アセチル化酵素HDACファミリーに着目した研究を進め、class 2 HDACに属するHDAC9発現が脱分化肝癌の幹細胞性に寄与することを発表した(第80回日本癌学会発表)。さらに肝癌細胞において発現しているHDAC9バリアントは、酵素活性部位や核局在シグナルを欠いた構造であり、本来のHDACとしての機能は持たないことが示唆された。これらは明瞭な細胞質局在を示し、さらに一部は何らかの細胞小器官に局在することが示唆された。したがってこれまでにないHDAC9の機能解明が期待できる。この成果は2022年度の日本癌学会で発表予定である。
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