研究課題
当該研究では、これまでの基盤研究により、日本人健常人由来のリンパ球をIl-2やCD3(OKT3)刺激により培養増殖させ、MHC非拘束性でNKG2Dの発現が高いNutural Killer T 細胞を含む、いわゆるCAK(cytokine activated killer) 細胞とヒト大腸癌(コーカソイド由来)スフェロイドのアロジェニック(同種異系間)共培養系を樹立し、より生体内微小環境を反映する評価系を構築することに成功した。し、変異KRASにより、①基底膜の消失に伴うCAK細胞の浸潤、②内腔の消失に伴う免疫チェックポイントの作動とCAK細胞との共生、及び③生体内類似変異KRAS制御シグナルの重要性を明らかにすることを目的としてきた。3次元共培養系においてCAK細胞が変異KRAS陽性細胞塊に特異的に浸潤する現象は、変異KRAS陽性大腸癌の患者標本においても認められ、具体的には、癌の浸潤先端部内においてCD3陽性T細胞が認められた。変異KRASが3次元培養特異的に制御する分子としてCD155を同定し、この分子はCAK細胞からの攻撃を負に制御する、新規の免疫チェックポイント分子であり、CD155の制御によって、変異KRAS陽性癌のような難治性癌の癌細胞の増殖を制御できることが示唆された。さらに生体内類似環境において変異KRASが制御するシグナルはRNA-seqの解析を介して進めており、このシグナルを特異的に抑制するリード化合物(STAR2)をベースに新たな化合物の開発も進めており、物質特許を出願した。またSTAR2の標的タンパク質の同定にも成功し、これまでにない細胞小器官を中心とした癌増殖シグナルの存在が示唆され、現在詳細解析を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
ヒト大腸癌HCT116より変異KRASを欠失させて得られたクローンは複数あるが(HKe3, HKh2 etc.)、その中でも、大腸クリプト様の正常形態を示すHKe3細胞を選択し、この細胞に野生型KRASまたは変異KRAS(G13D)を再発現させ、この細胞ペア(HKe3-wtKRAS、及び、HKe3-mtKRAS)を用いることで、他のドライバー変異の影響を受けずに、変異KRASカスケードのみによる変化を形態的にも遺伝子の発現においても浮き彫りにさせることが可能である。HKe3-mtKRAS細胞の増殖のみを3次元培養にて阻害できる化合物(STAR2)をこれまでの研究において天然物化合物より取得し用途特許を取得してきたが、新たに九州大学薬学部環境調和創薬化学分野と共同でSTAR2の改変物を合成し、物質特許を出願した(R2年2月6日:特願2020-017307)。最近SATR2が結合する標的タンパクを2つ同定することができた。理論上、これまでに認められてきた、毒性の少なさ、薬剤耐性株を含む多くの癌に効果があること、CD155タンパク局在の変化などの現象を説明しうる標的タンパクであり、生体内類似環境において変異KRASが制御するシグナルの全貌が一気に解明できる可能性がある。
変異KRASが制御するシグナルに関してはmRNAを介する系とタンパク局在変化やタンパク分解機構を介する系があると考えられ、mRNA発現に関しては次世代シークエンサーを用いたRNA-seqにて、変異KRASの有無によるmRNA発現の違いおよびSTAR2投与によるmRNA発現の変化を示すデータを既に取得しており、現在解析中である。またSTAR2-標的タンパク複合体の解析は九州大学理学部との共同研究によりIn silicoの系で進行中である。STAR2最適化は九州大学薬学部で行っており、物質特許の取得に向け新たなデータを蓄積している。このようにSTAR2を基盤に研究を進め、最終的には、微小環境における免疫細胞との相互作用に関してもより踏み込んだ解析が可能になると考えている。中分子薬に関する開発に関しては、すでにグラスゴー大学との共同研究(日英医学健康共同研究助成)を基盤に進行中である。標的タンパクの結晶構造とSTAR2が結合する部位は判明しているので、それに基づいてペプチドデザインは可能である。また、既にRAFに対するペプチド創薬の実績もある。本年度10月からは人的派遣も行い研究を推進させる。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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https://www.gla.ac.uk/researchinstitutes/icams/staff/georgebaillie/