変異KRASは全癌の30%占めるが近年KRASのG12C変異を標的とする分子標的薬が開発されつつあり、臨床治験で効果を示している。しかしG12Cは全KRAS変異の中でも3%であり、依然として変異KRASを制御することは困難である。 当該研究では、日本人健常人由来のリンパ球をIl-2やCD3刺激により培養増殖させ、MHC非拘束性でNKG2Dの発現が高いNatural Killer T 細胞を含む、いわゆるCAK(cytokine activated killer) 細胞と変異KRAS陽性(G13D)ヒト大腸癌(コーカソイド由来)スフェロイドのアロジェニック(同種異系間)共培養系を樹立し、より生体内微小環境を反映する評価系を構築することに成功した。変異KRASが3次元培養特異的に制御する免疫チェックポイント分子としてCD155を同定し、CD155の制御によって、変異KRAS陽性癌の増殖を制御できることが示唆され、これらの現象は、変異KRAS陽性大腸癌の患者標本においても認められた。 このように、変異KRASのシグナルの中には自身の増殖シグナル以外にも、免疫逃避シグナルが存在し、現在では生体内類似環境において変異KRASが制御するシグナルを特異的に抑制するリード化合物(STAR2)をベースに新たな化合物の開発も進めており、物質特許を出願した。またSTAR2の標的タンパク質として、ミトコンドリアに存在するVDACおよび小胞体に存在するKDELRの同定にも成功し、これまでにない細胞小器官を中心とした癌増殖シグナルの存在が示唆され、現在詳細解析を進めている。
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