がん転移に対する効果的な抑制法の提案は重要である。そのためには、転移成立を決定付ける制御機構の理解とその機構の抑制標的としての妥当性の検証が欠かせない。しかし、転移は多段階かつ多様な過程で制御されるため複雑であり、転移成立に寄与する制御機構の理解には、転移の各過程を含みかつ区別できる系が必要である。 本研究では、転移初期、中期、後期の過程が機能欠損しているがん細胞株をそれぞれin vivoスクリーニングに利用し、ゲノムワイドなshRNAライブラリーを導入することでがん転移の成立に寄与する因子を探索することとした。得られた候補因子について関与する各転移過程における機能を解析することで、新規がん転移関連因子の機能解明と抑制標的としての可能性を提案することを目的とした。 本スクリーニングで得られた転移の初期過程に関与する新規候補因子EMR1(early-step metastasis regulator 1)と中期過程に関与する新規候補因子MMR1(midle-step metastasis regulator 1)の解析から、EMR1が転移初期に重要な転移能の1つである遊走能・浸潤能の制御に関与する可能性と、MMR1が中期の血行性転移過程に重要な血小板凝集因子の発現抑制に関与する可能性が示された。それぞれの因子の発現量は、同じがん細胞株由来の複数のサブクローンにおいて、転移能と逆相関しており転移への関与が示唆された。さらに、ヒストン修飾酵素として知られるMMR1のノックダウンによる血小板凝集因子の増加は、mRNA量の増加を伴っており、MMR1によるエピジェネティック制御を介した転写調節が考えられた。また、実際にMMR1ノックダウンによる血小板凝集因子の増加は、がん細胞株の血小板凝集誘導能を上昇させ、血小板を介した転移促進に寄与する可能性が示された。
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