研究実績の概要 |
骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)は、損傷した組織の再生や修復に働いており、さらに様々な組織に遊走し、稀に体細胞と融合することが報告されている。腫瘍組織でも、大量のBM-MSCが遊走しており、腫瘍細胞と融合することで腫瘍細胞のゲノム不安定性を増加させ、悪性化を引き起こすことが報告されている。本研究では、BM-MSCと膀胱癌細胞株UMUC-3との融合細胞株であるHB1-6が脂肪細胞分化能を維持したまま、親のがん細胞に比べて細胞増殖や腫瘍の生育が遅延するにもかかわらず、その一方で、免疫チェックポイント分子のPD-L1の発現増加が起きることを見出した。同じような報告が電離放射線(IR)処理した癌細胞で起きることが報告されている。IR照射によるがん細胞でのPD-L1発現増加はDNAチェックポイント経路が関与している。そこで、細胞融合によるPD-L1の発現がDNAチェックポイント分子(Chk1, ATRなど)の活性化の関与について検討したところ、関係ないことが判明した。さらに、融合細胞で発現上昇するPD-L1が腫瘍の成長に関与をするか異種移植モデルを用いて調べた。PD-L1発現融合細胞は腫瘍が増殖するが、一方、PD-L1-KO融合細胞では、腫瘍形成が著しく抑制されていた。融合細胞の腫瘍組織を調べたところ、ヌードマウス由来のPD-1陽性マクロファージが多数浸潤しており、融合細胞のPD-L1がマクロファージ活性を抑制している可能性がある。以上の結果から、BM-MSCと膀胱癌細胞との融合細胞はPD-L1の発現を上昇させ、免疫細胞からの攻撃を回避するとこで腫瘍の成長を支えていると考えられる。
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