2020年度はマウスリンパ腫モデルを主に用いて研究を推進した。過去の解析でMYC誘導性リンパ腫モデルは単クローン性での増殖が確認されたため、発がんに寄与する遺伝子の同定を目的とした全ゲノムシーケンス解析を実施した。その結果、9匹由来のリンパ腫クローンにおいて9匹全てのクローンで機能喪失型変異を持つ遺伝子を3個、8匹のクローンで機能喪失型変異を持つ遺伝子を1個同定した。そこで公共データベースの発現プロファイルを用いてリンパ腫患者の生存期間と同定した遺伝子の発現について相関解析を行ったところ、3個の遺伝子において低発現ほど有意と予後不良と相関することを見出した。この結果からMYCによるリンパ腫誘導には同定遺伝子に変異が生じ、機能が喪失することが重要であり、再度活性化することができれば悪性リンパ腫に対する新たな治療法となる可能性が考えられた。さらに成熟Bリンパ腫において発症・悪性化機序の一つとして考えられるシチジンデアミナーゼAIDに関する検討を実施した。まず、前年度の結果を基にAIDによる遺伝子変異導入が薬剤耐性の獲得に繋がるのかどうか、AID高発現のマウスリンパ腫細胞に対して標準治療薬であるドキソルビシンを用いて検討を実施した。その結果、長期にドキソルビシンを処理しても薬剤耐性を獲得した細胞を得ることができなかった。これはつまり、AIDが限られた条件下でのみ変異を誘導することが示唆された。さらにAIDの発現増加がリンパ腫の進展に影響を及ぼすのかどうか、リンパ腫細胞にAIDを発現させたところ、細胞死が強く誘導されることが分かった。この結果からAIDの発現量は一定に制御されることがリンパ腫の維持にとって非常に重要で過剰な発現は重度のDNA損傷を引き起こし、アポトーシスが誘導されることが示唆された。従ってAIDの過剰な活性化は逆に新たな治療法となる可能性が考えられた。
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