研究課題/領域番号 |
18K07226
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
三上 剛和 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (80434075)
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研究分担者 |
上原 範久 九州大学, 歯学研究院, 助教 (30368211)
早津 学 新潟大学, 医歯学系, 助教 (40468898)
水谷 祐輔 北海道大学, 総合IR室, 特任准教授 (40646238)
津田 啓方 日本大学, 歯学部, 准教授 (60325470)
福島 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (80415281)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SLPI / Galectin4 / 細胞移動能 / 口腔上皮がん |
研究実績の概要 |
Secretory leukocyte protease inhibitor (SLPI)は、白血球が生産するプロテアーゼから皮膚や粘膜を保護する因子として知られている。近年、このSLPIが腫瘍の悪性化の一因となっていることが示唆されている。われわれはこれまでに、SLPIを強発現するヒト口腔上皮癌Ca9-22細胞において、SLPI遺伝子を欠損させると、細胞移動能が抑制されることを報告した。そこで本研究では、その分子機序を解明する目的で、網羅的な遺伝子発現解析を行い、SLPI制御下にある細胞移動能関連因子の同定を試みた。マイクロアレイデータをもとにしたバイオインフォマティクス解析とリアルタイムPCR法による解析から、SLPI遺伝子欠損型(ΔSLPI)Ca9-22細胞と比較して、Ca9-22細胞では、細胞接着に関与するGalectin 4遺伝子の発現が抑制されていることが明らかになった。さらに、Galectin 4を強制発現させたCa9-22細胞では、ΔSLPI Ca9-22細胞と同様に細胞移動能が抑制された。また、Galectin 4遺伝子の上流のプロモーター領域のメチル化解析を行った結果、Ca9-22細胞では、この領域が高度にメチル化されていることが明らかになった。これらの結果から、SLPIがGalectin 4遺伝子のプロモーター領域のメチル化を亢進し、Galectin 4遺伝子の発現が抑制されることによって、細胞間の接着が弛緩し、細胞移動能が亢進することが予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は次の3点である。①SLPIによって,がん細胞の機能・形態がどよのうに変化するのかを明らかにする。②SLPIの制御下にあり,がん病態の悪性化に関与する遺伝子およびシグナル経路を明らかにする。③がん細胞においてSLPI遺伝子そのものの発現がどのように制御されているのかを明らかにする。①については、細胞表面のRuffle構造が短くなり動態が鈍化することを明らかにしている。②については、SLPIがMAPK signaling pathwayおよびSNAI2を介してE-Cadherinの発現すると、Galectin 4遺伝子のプロモーター領域のメチル化を亢進し、Galectin 4遺伝子の発現が抑制することを明らかにしている。E-CadherinおよびGalectin4は細胞接着を担う因子であり、これらの発現がSLPIによって抑制することで細胞間の接着が弛緩し、細胞移動能が亢進すると考えられる。このほかに、SLPIは、cAMPシグナル伝達経路介したGlioma-associated oncogene family zinc finger (GLI) タンパク質のリン酸化を亢進することによってLCP1の発現を誘導し、細胞移動能を亢進する可能性も示唆されている。③については現在解析中である。以上の成果から本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに研究で同定されたSLPIによる細胞移動能の亢進に関与する因子について、強制発現や遺伝子ターゲッティング,siRNAなどによる発現抑制を行い,細胞移動能・浸潤能などの特性や,細胞形態に対する影響について、より詳細に解析する。 解析にはこれまでのin vitro実験に加え,マウスあるいはラットへ移植実験を行い、がん形成,組織浸潤,血管様構造の形成,転移等に対する影響について検討する(in vivo 解析)。さらに,各種高解像度顕微鏡を用いて細胞微細構造について観察を行い,細胞形態変化について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大防止対策として、当初予定していた学会発表、研究打ち合わせ等を延期する必要が生じたため。
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