研究課題/領域番号 |
18K07230
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉川 陽子 神戸大学, 医学研究科, 助教 (50775864)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乳がん / 骨転移 / Ras / LOX / Ras阻害剤 / リシルオキシダーゼ / ラス |
研究実績の概要 |
日本国民の死因の第一位を占めるがんにおいて、rasがん遺伝子産物Ras(H-、N-、K-Rasの3種類)の突然変異による恒常的活性化が高頻度に認められている(がん全体の約20%、大腸がんでは約40-60%、膵臓がんでは約60-90%)。申請者は、Rasの薬剤結合領域を世界に先駆けて解明し、この領域に結合してRasの機能を阻害するRas阻害剤の開発に成功した。このRas阻害剤は、個体レベルにおいて市販薬に匹敵する抗がん活性を有するだけでなく、がん転移への密接な関与が示唆されるリシルオキシダーゼ(LOX)の発現制御を介した抗転移活性を示したことから、Ras阻害剤は腫瘍の増殖のみならず転移をも阻止できる画期的な新規抗がん剤である可能性が示唆された。近年、LOXが乳がんの骨転移に深く関与することが報告された。乳がんによる最大の死因は、遠隔臓器、特に骨への転移であり、その多くが治療不能であることから、乳がんの骨転移の治療法の確立は世界的急務となっている。本研究は、LOXを介した乳がんの骨転移および転移腫瘍の増殖において、Rasが重要な役割を担うか培養細胞および個体レベルで検証するとともに、Ras阻害剤が乳がんの骨転移や腫瘍の増殖を阻止できる新規抗がん剤として抗がん剤開発に新局面を開拓する可能性があるか評価するものである。当該年度では、乳がん細胞の遊走に焦点をあて、Estrogen receptor-positive cancer cellsとは違い、高悪性化乳がんであるtriple-negative breast cancer cellsにおいて、LOX依存的な遊走促進とRas阻害剤であるKobe0065による遊走阻害を確認することができたことから、高悪性化乳がんにおいてRasがLOXを介したがん細胞の遊走に重要な役割を担っている可能性を確認するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、ヒト乳がん培養細胞の遊走に焦点をあて、まずT47DやMCF-7などEstrogen receptor-positive cancer cells、もしくはMDA-MB-231やMDA-MB-468など高悪性化乳がんであるtriple-negative breast cancer cellsにおいて、LOXが細胞遊走促進に寄与するかどうか検証するため、siRNA-LOX処理による遊走阻害を確認したところ、triple-negative breast cancer cellsにおいてのみ遊走阻害が確認できた。次にこれらの細胞において、siRNA-K-Ras処理、およびRas阻害剤であるKobe0065処理によっても同様に遊走阻害が見られたことから、高悪性化乳がんであるtriple-negative breast cancer cellsにおいて、RasがLOXを介したがん細胞の遊走に重要な役割を果たしている可能性を確認することができた。これらの結果は、高悪性化乳がんの骨転移および転移巣での腫瘍の増殖におけるRasの中心的役割の可能性を示唆するものであり、Ras阻害剤の新規乳がん骨転移抑制剤としての可能性が提唱できれば、抗がん剤開発に新局面を開拓するだけでなく、世界初の革新的なRas分子標的がん治療薬の開発につながるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Rasがヒト乳がん培養細胞において、Ras-PI3K-AKTシグナル伝達経路を介したLOXの発現制御や、Ras-Raf-MEKシグナル伝達経路を介した細胞増殖への関与を明らかにする。そのために、Ras阻害剤もしくはRasのsiRNA処理によるLOX発現への影響についてmRNAおよび蛋白レベルで解析を加える。また同時に、これら処理によるMEKおよびERKの活性化レベルの解析、および細胞増殖アッセイを実施することにより、乳がん細胞において、このシグナル伝達経路を介したRasの細胞増殖への関与を検証する。検証の結果、Rasが乳がん細胞において、LOXの発現制御による遊走・浸潤抑制や細胞増殖抑制に関与することが明らかになれば、次に、骨転移モデルマウスを用いた骨転移試験を実施し、Ras阻害剤が新規乳がん骨転移抑制剤として世界に発信できるか検証する。検証方法としてはまず、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した高悪性化乳がん細胞株MDA-MB-231を作製し、マウスに移植するとともに、マウスへのRas阻害剤の投与も開始する。その後、イメージング装置を使用することにより乳がん細胞の骨への集積を確認する。またCT(コンピュータ診断撮影)装置使用による骨の破壊(溶骨性損傷)について画像解析する。さらに、試験終了後にマウス後肢(大腿骨および脛骨)を取り出し、固定、脱灰後に骨切片を作成し、組織学的染色、ならびに免疫組織学的染色を実施して、転移組織レベルにおけるより詳細な解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、当初予定していたマウス実験の一部しか実施できなかった。計画していた残りのマウス実験は平成31年度内に実施する予定であることから、当該年度内に請求した助成金も滞りなく使用できると考える。
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