研究課題/領域番号 |
18K07230
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
吉川 陽子 神戸大学, 医学研究科, 助教 (50775864)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Ras / がん / Ras阻害剤 / リシルオキシダーゼ / LOX / 転移 / 乳がん / 骨転移 |
研究実績の概要 |
日本国民の死因の第一位を占めるがんにおいて、がん遺伝子産物であるRas(H-、N-、K-Rasの3種類)は、高頻度にその突然変異による恒常的活性化が認められている。申請者は、Rasの薬剤結合領域を世界に先駆けて解明し、この領域に結合してRasの機能を阻害するRas阻害剤の開発に成功した。このRas阻害剤は、個体レベルにおいて市販薬に匹敵する抗がん活性を有するだけでなく、がん転移への密接な関与が示唆されるリシルオキシダーゼ(LOX)の発現制御を介した抗転移活性を示したことから、Ras阻害剤は腫瘍の増殖のみならず転移をも阻止できる画期的な新規抗がん剤になる可能性が示唆された。近年、LOXが乳がんの骨転移に深く関与することが報告された。乳がんによる最大の死因は、遠隔臓器、特に骨への転移であり、その多くが治療不能であることから、乳がんの骨転移の治療法の確立は世界的急務となっている。本研究は、LOXを介した乳がんの骨転移および腫瘍の増殖において、Rasが重要な役割を担うかどうか培養細胞および個体レベルで検証するとともに、Ras阻害剤が乳がんの骨転移や腫瘍の増殖を阻止できる新規抗がん剤として抗がん剤開発に新局面を開拓する可能性があるか評価するものである。当該年度で申請者は、ヒト高悪性化乳がんであるtriple-negative breast cancer (TNBC) に焦点をあて、培養細胞レベルにおいてRasがTNBCの細胞遊走や細胞増殖に関与すること、そしてRas阻害剤であるKobe0065がこれらを阻害することを明らかにした。さらに個体レベルにおいてKobe0065はTNBCの骨転移や腫瘍の増殖を顕著に阻害することを示したことから、TNBCの骨転移や腫瘍増殖において、Ras阻害剤は抗転移および抗腫瘍活性を有する画期的な新規薬剤になる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では、ヒト高悪性化乳がんであるtriple-negative breast cancer (TNBC) に焦点をあて、Rasが培養細胞レベルにおいて、Ras-PI3K-AKT-LOXシグナル伝達経路を介した細胞遊走やRas-Raf-MEK-ERKシグナル伝達経路を介した細胞増殖に関与すること、そしてRas阻害剤であるKobe0065がこれらの細胞遊走や細胞増殖を阻害することを明らかにした。さらに個体レベルにおいて、Kobe0065がTNBCの骨転移や腫瘍の増殖を顕著に阻害することを明らかにした。これらの結果は、TNBCの骨転移や腫瘍増殖において、Ras阻害剤が抗転移および抗腫瘍活性を有する画期的な新規薬剤になる可能性を示唆するものとなった。以上は、当初の3年研究計画での最終(最短)目標であり、2年経過時点でこの目標を達成できたことは、最終年度においての更なる検証、例えば他の乳がん細胞株を使用した追試や再検証が可能となるだけでなく、Rasの骨転移や腫瘍増殖に関与する機構の解明も実施可能となり、論文作成・投稿における大きなアドバンテージになると考えられる。また、これらの研究結果は全て、世界初の革新的なRas分子標的がん治療薬の開発につながるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度では、ヒト高悪性化乳がんtriple-negative breast cancer (TNBC) 細胞株に焦点を当てた。その理由は、TNBCに属するestrogen receptor negativeの乳がん細胞においてLOXの高発現が顕著に認められること、そしてTNBCの80%以上においてRasの上流に位置するEpidermal growth factor receptor (EGFR)の過剰発現、およびRas-Raf-MEK-ERKシグナル伝達経路の活性化が認められるからであった。我々は、Ras阻害剤による抗転移および抗腫瘍効果はTNBC限定的であると考えるが、それを証明するためにも、今後は、TNBC以外の乳がん細胞株を使用し、Ras阻害剤の効果を培養細胞および個体レベルで検証をおこなう予定である。手法はこれまでと同様に、Ras阻害剤もしくはRasのsiRNA処理を行うことにより、培養細胞レベルで、RasがLOXの発現やMEKおよびERKの活性化に与える影響についてmRNAおよび蛋白レベルで解析を加えると共に、細胞遊走、浸潤、および細胞増殖アッセイを実施することにより、乳がん細胞の遊走・浸潤や増殖へのRasの関与を検討する。我々の仮説通り、Ras阻害剤の効果がTNBC限定的であると判断できれば、他の乳がん細胞を用いた個体レベルでの抗腫瘍および抗転移アッセイは実施しない。代わりにTNBCを用いた個体レベルでのアッセイを実施し、骨転移の際の骨芽細胞や破骨細胞とRasおよびLOXとの関係性に検討を加え、RasがTNBCの骨転移と腫瘍増殖に関与する機構を詳細に解明する。さらに、これらのデータをまとめて論文を作成し、投稿することにより、研究成果を世界中に知らしめることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度分の助成金に関しては、ほぼ予定通り使用できたと考える。当該年度前の助成金の繰り越し分が少額残っているが、これは令和2年度内に実施を計画しているマウス試験および組織切片作成や染色等で使用予定であることから、 当該年度内に請求した助成金も滞りなく使用できると考える。
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