研究実績の概要 |
本研究では、脳腫瘍細胞におけるグアノシン三リン酸(GTP)代謝スイッチの分子機構とその意義を明らかにすることを目的としている。我々はこれまでに悪性度の高い脳腫瘍である神経膠芽腫において、GTP合成において鍵となる酵素 (イノシンモノリン酸デヒドロゲナーゼ-2, IMPDH2)の発現上昇によりGTPの産生が亢進していることを見出している。このGTPの産生亢進は、脳腫瘍細胞の増殖および腫瘍形成に必要であった。安定同位体を用いた解析から、IMPDHを介して合成されたGTPは、リボソームRNAとトランスファーRNAにより好んで取り込まれること、IMPDHの阻害がリボソームRNAの合成の場である核小体のサイズ変化につながることが明らかとなった。 本年度は、IMPDHの遺伝子発現の上昇の原因について解析を行った。始めに、脳腫瘍患者の腫瘍部における遺伝子発現データーベースを用いて、2つのIMPDHのアイソザイムの発現と相関のある遺伝子の発現を調べた。その結果、IMPDH1、IMPDH2どちらもがん原遺伝子としてよく知られたMYCと発現の相関が見られた。特に、IMPDH2の方がMYCと強い相関を有していた。そこで、3種類の脳腫瘍細胞を用いてMYCの遺伝子をCRISPR-Cas9を用いて欠損させ、IMPDHの遺伝子発現への影響を調べた。MYCの遺伝子欠損により、IMPDH1とIMPDH2の発現が低下した。さらに、MYCをドキシサイクリン依存的に発現する細胞株を作製し、IMPDHの発現レベルへの影響を調べた。IMPDH1、IMPDH2ともにMYCの発現上昇とともに発現レベルが上昇した。また、MYCの発現上昇はIMPDHを阻害剤で阻害した際の核小体のサイズの減少を抑制した。よって、脳腫瘍においてMYCがIMPDHの発現を通して核小体のサイズを制御することが示唆された。
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