腫瘍の発生と進展には細胞内の代謝活動が大きく影響することが知られている。細胞サイズ調節遺伝子として同定したLargenは、ミトコンドリアの量と活性を高めることで細胞を大きくすることが分かっている。癌抑制遺伝子であるPtenやp53をT細胞特異的に欠損させたマウスでは、ともに胸腺においてリンパ腫を形成して早期に死亡するが、Largenを過剰発現させると、Pten欠損マウスではリンパ腫の縮小が見られる一方、p53欠損マウスではそのような傾向が見出されなかった。その原因として、これら遺伝的背景の異なる腫瘍では、タンパク質の合成効率に差があり、代謝プロフィールも異なることが分かった。また、これらの指標に対してLargenの過剰発現が与える影響にも違いがあることが確認された。この違いを分子レベルで明らかにするために、メタボローム解析を行った。Largenを過剰発現する細胞と親株のコントロール細胞、およびそれらについてラパマイシンを作用させた4群について、中心エネルギー代謝に含まれる代謝産物を定量比較した。多くの物質で様々な変動が観察されたが、特定の代謝経路において特徴的な傾向を見出すことができた。その傾向は、別に行ったトランスクリプトーム解析において、Largenの過剰発現によって発現変動が見られた酵素の増減と相関するものであった。これら代謝経路とそれに関わる酵素群の変動からPten欠損とp53欠損に由来するリンパ腫の動向の違いを説明できるものと期待される。
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