研究課題
昨年度に引き続き、Xp11.2 転座型腎細胞がんの発症・進展に関わるANGPTL2シグナルの役割を解析する目的で、昨年度実施したRNA-seq解析の結果を精査した。その結果、ANGPTL2ノックダウンによってDNA損傷修復経路や細胞周期の制御に関連する遺伝子発現が主に変化していることを見出した。また、最近、TFE3融合遺伝子がp21の発現を制御しており、p21発現上昇に伴う細胞老化が、がん病態発症に関わっている可能性が報告された。そこで、ドキシサイクリン依存的にPRCC-TFE3を高発現するヒト尿細管上皮細胞株を用いてp21の発現や細胞周期解析を実施した。PRCC-TFE3の高発現によりANGPTL2およびp21の発現が誘導されることを確認した。さらに、細胞周期解析を行ったところ、PRCC-TFE3の高発現により細胞周期の遅延が認められ、ANGPTL2をノックダウンした場合、PRCC-TFE3による細胞周期の進行遅延が抑制されることを見出した。しかし、ANGPTL2をノックダウンした場合もPRCC-TFE3によるp21の発現誘導に影響は認められなかったことから、ANGPTL2はp21の発現制御とは別のメカニズムによって細胞周期の進行抑制に寄与していることが示唆された。昨年度までにXp11.2 転座型腎細胞がんモデルマウスを用いて同定した尿中miRNAのバイオマーカーとしての有用性を検証した。ヒト尿細管上皮細胞株とヒトXp11.2 転座型腎細胞がん細胞株の培養上清に含まれるエクソソーム中miRNAの含有量を解析したところ、ヒト尿細管上皮細胞株に比べヒトXp11.2 転座型腎細胞がん細胞株における同miRNAのエクソソーム中含有量が著明に増加していることを明らかにした。この結果より、ヒトにおいても尿中バイオマーカーとして同miRNAが有用性である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒトXp11.2 転座型腎細胞がん細胞株やドキシサイクリン依存的にPRCC-TFE3を高発現するヒト尿細管上皮細胞株を用いた解析から、ANGPTL2シグナルがPRCC-TFE3による細胞老化誘導に寄与している可能性を見出し、モデルマウスを用いて同定した尿中miRNAが、ヒトXp11.2 転座型腎細胞がんのバイオマーカーとして有用である可能性を示唆する成果を得るなど、本研究は順調に進展していると考える。
今後、ANGPTL2をノックダウンしたがん細胞株やドキシサイクリン依存的にPRCC-TFE3を高発現するヒト尿細管上皮細胞株を用い、PRCC-TFE3による細胞老化誘導に関連するANGPTL2シグナルを検討するとともに、Xp11.2 転座型腎細胞がんモデルマウスを用いて、PRCC-TFE3による細胞老化誘導とがん病態発症との関連を中心に検討する。また、尿中バイオマーカーとしてmiRNAの有用性については、本研究期間を通じて、健常者、Xp11.2転座型腎細胞がん患者、およびXp11.2転座型腎細胞がん以外の腎がん患者の尿サンプルを随時採取し、最終年度までにヒトにおいても尿中エクソソーム内miRNAがXp11.2転座型腎細胞がんに特異的なバイオマーカーとして有用か検証する。
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