本研究課題では、がん細胞のmTOR阻害剤に対する抵抗性獲得の分子メカニズムをmRNA翻訳の観点から明らかにすることを目的としている。以前の研究において我々のグループは、mTORC1-4E-BP-eIF4Eシグナル伝達経路が、mRNA翻訳を刺激することによってタンパク質合成およびミトコンドリアの分裂や機能の活性化を引き起こし、がん発症・促進に関与していることを明らかにしてきた。mTOR阻害剤は抗がん剤として認可されており、現在もさらなる臨床開発が進められているが、そのほかの分子標的薬と同様に抗がん作用に対するがん細胞の抵抗性の獲得が問題となっている。我々の近年の研究結果は、mTOR阻害剤がミトコンドリア伸長を促進し、このことががん細胞の生存に重要であることを示してきた。当該年度は、昨年度に作製した抵抗性がん細胞および肥満誘導性がんモデルマウスを用いて、近年開発された手法であるリボソームプロファイリング法を行った。これらのゲノムワイドな解析により抵抗性に関わるmRNA群を単離・同定し、特にミトコンドリアタンパク質をコードするmRNA群が抵抗性の獲得に重要であることが明らかとなった。実際にミトコンドリア阻害剤とmTOR阻害剤を併用することにより、抵抗性獲得がん細胞において相乗的な抗がん作用を確認することができた。現在は、これらの結果をまとめて論文を投稿している。さらに、マウスモデルを用いた実験により、mTORC1/4E-BPシグナル経路が代謝を制御する分子機構の一端を明らかにし、2報の論文を発表することができた。
|