研究課題/領域番号 |
18K07239
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山本 雅達 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (40404537)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 活性酸素 / TIC / tumor-initiating cells / 鉄 |
研究実績の概要 |
本研究ではABCB10の発現変化により生じる細胞内の鉄の蓄積によって、フェントン反応が亢進するメカニズムを検討し、ABCB10の発現変化が鉄代謝のリプログラミングの制御にどのように関わるかを解明することを目的としている。また鉄、PPIXやROSは腫瘍細胞の生存や薬剤感受性、または腫瘍のさらなる悪性化に関連する因子であり、これらを制御することが腫瘍特異的な治療薬の開発につながる可能性が期待されるが、その動態や代謝機構は不明な点が多く、これらを標的とした特異的な治療法は確立されていないのが現状である。このことから、マウスメラノーマ細胞(B16)やマウス肺がん細胞(LLC)におけるAbcb10の発現変化が、腫瘍の増殖や様々な抗がん剤の感受性にどのような影響を及ぼすか、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度は昨年に引く続き、マウスメラノーマ(B16)のドキシサイクリン誘導性(DOX)のAbcb10発現抑制株(B10KD)を作製し、デキサメタゾン(DEX)、カンプトテシン(CPT)、パクリタキセル(PTX)などに加えて腫瘍細胞内のRosを直接増加させる鉄剤(ホロトランスフェリン)やアルテミシミン(抗マラリア薬)などを用いた薬剤感受性を比較した。 一方、スフェアを形成する細胞から得られる未分化なTIC(tumor-initiating cells)において、鉄の酸化応答に関与する遺伝子群や、ABCB10やROSを消化するFeSクラスター合成に関与する遺伝子の発現変化が未分化な TICと通常細胞との間で鉄およびROSの代謝のリプログラミングに関与していることが内外の研究により示唆されている。本研究ではTIC-通常細胞間で鉄やROSの代謝リプログラミングにおけるABCB10の役割を明らかにすることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度のB16とB10KDについてDEX、CPT、PTX作用機序の異なる各種抗がん剤に対する感受性の変化を検討したところ変化を認められなかったことから、ホロトランスフェリンやアルテミシミンを用いた薬剤感受性を比較したが、B16とB10KD間で細胞の生存率に変化はなかった。 Hemeを含む血清の存在下・非存在下に加えてHemeとPPIXの前駆体である5Alaを添加することで薬剤感受性が増感することを期待したが、これについてもAbcb10の発現に依存した薬剤感受性の変化は見られなかった。一方B16とB10KD、それらに加えてLLCとLLCにおいてDOX誘導性にAbcb10をノックダウンする細胞株LB10KDを用いてスフェア形成時におけるAbcb10依存性に発現変化をきたす遺伝子の探索を行った。 通常培養時にはAbcb10が発現低下するB10KDおよびLB10KDでは野生型B16やLLCに比較してポルフィリン誘導体をミトコンドリア膜間スペースに能動輸送するAbcb6の発現が補完的に上昇していたが、スフェア形成時においてはAbcb10が発現低下するB10KDおよびLB10KDにおいて著名なAbcb6の発現減少が観察された。 同様に、その変動に程度の差は認められるものの、ミトコンドリアに鉄を輸送するMfrn1やFe-Sクラスターを形成し細胞内Rosの消化に働くEpas1、Ireb1、Aco1の発現も減少していた。このことから、通常培養時においてはAbcb10が発現低下することでHeme合成系に関与する遺伝子群の発現が補完的に上昇し、またRos消化に機能する遺伝子群も発現が上昇するが、スフェア形成時においてはそれらの遺伝子の発現はいずれも減少傾向を示した。
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今後の研究の推進方策 |
Heme合成最終段階にある鉄とPPIXの結合を触媒するFechはP53野生型であるB16やB10KDまたヒト乳がん細胞株MCF7のスフェア細胞で6-8倍と非常に高い発現を示した。逆にP53変異型であるLLCはスフェア形成時にFechの発現が減じており、LB10KDにおいても同様の傾向が観察された。 このことから、通常培養からスフェア形成時に鉄およびRosの代謝遺伝子の発現はAbcb10の発現に依存してリモデリングするものと、Fechのようにスフェア形成時にはAbcb10の発現に逆相関する遺伝子(通常培養時にはAbcb10の発現減少によってFechは亢進する)が存在することが示唆された。 フェロトーシス経路のキーとなるFe-Sクラスターを構成する遺伝子の発現はP53に依存した経路が内外の報告から明らかにされており、同様に本実験においても、Epas1、Ireb1やAco1の発現はLB10KDのスフェア形成時により顕著な減少を示した。 当研究室において先行して行なったB16とB10KD株のマウス移植実験ではB16に対してB10KDは腫瘍縮小を示した。B16はP53野生型であることから、このB10KDが縮小したメカニズムを理解するために作用機序の異なるAbcb10欠損によるRosの産生と代謝のリモデリングのメカニズムを解明することで、細胞増殖にどのように変化生じるかを明らかにできると考えている。これらの検証を重ねることでABCB10の発現変化により生じる細胞内のRosや鉄の蓄積によって、これらの代謝のリプログラミングが生じる可能性を示し、Ros代謝の制御によるがん治療法の開発へ繋がる研究成果を得ることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅れに伴い次年度使用額が生じたが、今年度に計画を移行した網羅的発現解析スクリーニングに使用する予定である。
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