研究課題/領域番号 |
18K07241
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
河合 佳子 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (10362112)
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研究分担者 |
林 もゆる 東北医科薬科大学, 医学部, 助教 (60548147)
浅香 智美 東北医科薬科大学, 医学部, 助教 (90555707)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | センチネルリンパ節 / リンパ浮腫 / リンパ管新生 |
研究実績の概要 |
癌の原発巣から癌細胞が分泌する様々なサイトカイン等を含有したリンパ流がセンチネルリンパ節に流入することにより、リンパ節内リンパ管内皮細胞の生物学的特性の変化が起こり癌細胞との接着能が亢進するという癌転移成立機序を、私どもはリンパ節内の微小環境変化の視点から研究を進めていた。具体的には、悪性度の異なるヒト癌細胞株の培養上清刺激において培養リンパ管内皮細胞表面の接着分子であるICAM-1の発現が亢進し、さらにリンパ管内皮細胞と癌細胞の接着能が亢進することもin vivoおよびin vitro実験で確認してきた。 また、センチネルリンパ節の超音波造影剤を用いたエコーでの描出法をすでに確立していたため、リンパ節内の環境変化に応じて造影剤の到達度や滞留時間が変化するよう造影剤表面にさまざまなリガンドを発現させたり、造影剤内部に抗癌剤を封入して、リンパ節に集簇する造影剤の特徴を生かし癌転移のあるリンパ節に特異的にかつ高濃度に投与できるドラッグデリバリーシステムの構築ができるよう、基礎実験を始めた。具体的には、現在市販されている超音波用のリンパ管造影剤をCTでも利用できないかと考え、動物モデルを用いて撮影条件の検討を始めた。 さらに、センチネルリンパ節生検後のリンパ管再疎通現象がどのような要因により変化するか、さらには術後のリンパ浮腫が惹起される病因について、リンパ浮腫モデルとなり得る遺伝子改変マウス(GATA2およびGATA3を様々に発現変化させたマウスの系)を用いて検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は主にセンチネルリンパ節生検後のリンパ管再疎通現象がどのような要因により変化するかについて、正常のマウスおよびリンパ浮腫モデルとなるGATA2遺伝子改変マウスを用いて研究を進めた。平成30年度にすでにリンパ管再疎通現象が最もよく観察できる手術部位(両膝窩)と手術法(リンパ節摘出術)、および経時的変化の解析法(通常3週間で再疎通完了)が決定できていたため今年度は遺伝子型による再疎通の差異についての検討を進めた。 具体的には、MonoMac症候群やEmberger症候群の原因とされるGATA2遺伝子改変マウスを用い、リンパ節切除後のリンパ管の再疎通を観察した。3週間後のリンパ管の状況を確認したところ正常マウスではほぼ全例に再疎通が認められたが、遺伝子改変マウスにおいては再疎通の遅延が認められた。遅延の状況を解析するためにリンパ節切除後の肉芽を採取し、リンパ管再生を誘導するような因子のRNA発現の解析を進めている。また、組織学的検討を行うためにリンパ管の再疎通部位を周囲の組織とともに切除し、リンパ管の再疎通状況の確認を行っている。 さらに、リンパ管の再疎通に関わる周囲の環境変化を解析するために、遺伝子型の異なる遺伝子改変マウスを用いて検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
乳がんや悪性黒色腫のセンチネルリンパ節生検後や子宮がんなどの広範リンパ廓清術後のリンパ浮腫の発症を少しでも抑制できるよう、リンパ管再疎通を亢進させる因子の解析を進め、臨床応用を可能にするような基礎研究を進める。さらに、リンパ管の再生を遅延させるような環境要因を探索し、正常マウスと遺伝子改変マウスから病態解析に有用な細胞を培養系に移行し、その遺伝子発現につき解析を行いたい。 リンパ管・リンパ節の可視化の点からは、センチネルリンパ節の超音波造影剤を用いたエコーでの描出法はすでに確立し、リンパ管への移行が惹起されやすい物質特性は解明されてきたため、CTでの描出条件は少しずつ解明できてきた。さらにその造影剤に加工を加えることによってCT・MRIを用いたセンチネルリンパ節描出用の造影剤を開発し、臨床応用に向けて研究を進めたい。そのために、本学薬学部リポソーム研究者や薬剤の安全性に明るい研究者と共同研究を組みたいと考えており、学内の研究会で現在までの研究結果を積極的に配信していきたいと考えている。 本研究チームの最大の特徴は、多角的にリンパ管の再生やリンパ流についての解析を進められるところにあるので、そのメリットを最大限に生かし進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子改変マウスを用いた実験系が当初の予定よりも進めることができたため、飼育費や生体から分離・培養した細胞の解析に用いる試薬や培養液の購入費用が増えたため、12万円強の次年度使用額が生じた。 培養細胞の実験はあと少しで解析が終了する見込みなので、次年度の使用額は減少すると考えられ、次年度に計画した実験の進行を妨げるようなことはおこらない。
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