神経芽腫の悪性化に関わるALKキナーゼのタンパク質複合体の解析で、これまでにALKがFlotillin-1によりタンパク質レベルで活性化-不活性化の制御を受けることを見出し、その活性化を媒介するシグナル分子ShcCやShp2が、Srcファミリーキナーゼの基質としてリン酸化による制御を受けていることが示唆された。またFlotillin-1自体もSrcファミリーによるリン酸化が示唆されているが、Srcファミリーは神経芽腫においても他の成人の固形腫瘍同様に転移・浸潤の過程に関わることは示唆されるものの、通常のがん遺伝子の活性化が極めて限られていて、自然消退など可逆的変化も見られる小児がんの神経芽腫でSrcファミリーがどのような役割をしているのか詳細は分かっていない。本研究では神経芽腫由来のNB39-nu細胞やTNB-1細胞を用いて、Srcキナーゼやその基質分子が神経芽腫の悪性化のプロセスにおいてどのような役割をしているかの解析を進めてきた。 Srcキナーゼ阻害剤のsaracatinib、bosutinib、dasatinibを用いた解析では、神経芽腫におけるSrc経路の阻害が、細胞増殖よりも細胞運動について最も顕著な効果を示すことが明らかになった。これらの阻害剤の中でもdasatinibの細胞運動抑制効果が最も強く、10nM程度の低濃度で見られた。この濃度でパキシリンやCasなどのSrcの基質のリン酸化が抑制されていた。また神経芽腫細胞においてsiRNAによるSrc基質群の発現抑制を試みたが、比較的明確に発現が抑えられたコルタクチンやパキシリンについても発現抑制による細胞増殖能や細胞運動能に対する影響は限定的であった。発現の減少に伴いこれらの基質のリン酸化の亢進が認められ、恐らく何らかのフィードバックメカニズムが存在するものと考えられる。
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