研究課題
これまでに、多発性骨髄腫(MM)患者から採取した骨髄間質細胞を用いて、がん微小環境における「がん間質」の機能解明を目指して研究を行ってきた。本研究では、がんの発育・進展に寄与するがん間質細胞の本質を明らかにすべく、MM患者由来間質細胞の網羅的分泌因子の解析を行い、機能的がん間質に特異的な因子を同定し、さらにこの特異的因子の発現を指標に健常者由来間質細胞から「がん間質細胞」の誘導モデル系を構築してがん間質化メカニズムの解明を目指した。初年度である本年度は、多発性骨髄腫患者由来BMSCsと前がん病態であるMGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)患者由来BMSCs、および健常者由来BMSCsの特徴を比較するために、形態観察、細胞表面マーカー解析を比較し、さらにがん間質細胞の機能を特徴付ける分泌性因子を同定するために、マイクロアレイを用いたそれぞれのBMSCsにおける遺伝子発現解析とPCRアレイを用いたmiRNA発現解析、培養上清を回収して質量分析LC-MS/MSを用いてプロテオーム解析を行った。その結果、形態や細胞表面マーカーについては健常者由来BMSCsと患者由来BMSCsでの相違は見受けられなかったが、遺伝子発現プロファイルとmiRNA発現プロファイルには相違が見られた。特に、MM細胞株と共培養を行なってその増殖を促進することが可能なタイプのMM患者由来およびMGUS患者由来BMSCsに特徴的な発現を示すエクソソームmiRNAがmiR-10aであることを見い出した。このmiR-10aはMM患者由来およびMGUS患者由来BMSCsの細胞内では低発現であり、エクソソーム分泌経路を利用して細胞外に排出している可能性が考えられた。この排出されたmiR-10aが豊富に含有されるエクソソームをMM細胞株(RPMI8226, U266)に点火するとその細胞増殖が促進された。
2: おおむね順調に進展している
患者由来骨髄血の採取および保存が血液内科学分野の協力のもとスムーズに行えていた。また、骨髄血からのBMSCsの回収技術や間質細胞からのエクソソーム抽出技術は本研究がスタートする前から長年にわたって行なって確立されており、miRNA profilingと網羅解析データに関しても非常に安定化していたことが大きな要因である。
患者由来BMSCsが培養下でもCAFとしての機能を有していることから、がん間質へと誘導したBMSCsは共培養から単独培養に移行してもその機能は維持されると予想される。従って、誘導前の正常BMSCsとがん間質化誘導BMSCsの遺伝子発現解析および細胞内、エクソソーム内のmiRNAの変化を解析する。miR-10aを含むMM細胞株の増殖を誘導する機能を有する分泌因子を指標に、健常者由来BMSCから機能的ながん間質細胞を誘導するモデル系を確立する。さらに、がん間質の発生機序を分子レベルで明らかにし、がん間質化を阻害する、またはがん間質の正常化を試み、がん間質を標的とした新規治療法の開発を目指す。BMSCsの加齢性変化を踏まえ、MM細胞株と共培養して高齢健常者由来BMSCsのがん間質化を試みる。共培養系(直接接触型、カルチャーインサートを用いた非接触型)および共培養日数(1-2週間、1ヶ月)を検討する。がん間質特異的な分泌因子の発現・分泌を指標にがん間質化をモニタリングする。マトリゲルを用いて腫瘍細胞と混合してヌードマウス皮下に移植し、生体内での挙動を確認する。
研究成果について投稿し、投稿に関する費用に充当する予定であったが、年度内(H30年度)に採択されなかったため、差額が生じた。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件)
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